オチ的には、たぶん皆様の予想通りw
だが、それがザザ・クオリティ。
ワルドの様をごらんあれ。
ZEROの使い魔の世界に転生しました
第36話 策その2発動
さて、桟橋へと向うため、月明かりを頼りにボク達は走っています。
とある建物の間に存在する階段にワルドは駆け込むと、そこを上り始めました。
「『桟橋』なのに、山にのぼるんすか?」
「すぐに判るよ、才人くん」
才人くんの疑問にワルルンが答えないので、ボクが代わりに答えました。
なにせ、お髭様は今それどころではないからね、うひひ。
「?」
「ほら、急いで」
「あ、ああ」
長い、長い階段を上ると、丘の上に出ます。
「で、でけぇ・・・」
丘の上に存在する樹を見て、才人くんビックリ。
山ほどの大きさがある巨大な樹。
夜空に隠れて、てっぺんは見えないけど、相当な高さがあります。
そして、四方八方に伸びた樹の枝にはそれぞれ、大きな何かがぶら下がっていました。
「ふ、船だ! 船がぶら下がってる!」
そう、この巨大な樹が『桟橋』。
そして、ぶら下がっている船達は、『風石』の力により空を駆けるフネなのです。
驚く才人くんの様子を怪訝そうな表情でルイズが質問しました。
「そうよ。あんたの故郷じゃ違うの?」
「桟橋も船も、海にある」
「海に浮かぶ船もあれば、空に浮かぶフネもあるわ」
ルイズの返事はそっけないですね。
「さあ、こんなところで話してないで急ごう」
「そうね。いくわよ」
「お、おうっ」
ワルドを先頭に、樹の根元へと走ります。
樹の根元は、巨大なビルの吹き抜けのホールのように、空洞になっていました。
『桟橋』は枯れた世界樹の樹をうがって造った施設なのです。
夜なので人影は0でした。
各枝に通ずる階段には、案内のプレートが貼ってあります。
「3番港の『マリー・ガラント号』です、子爵!」
ボクはすぐに、3番港の案内板を見つけました。
しかし、プレートの前で突然、ワルドが立ち止まります。
「むぅ・・・」
「どうしました、子爵?」
「ん?」
「どうしたの、ワルド?」
まさか、ここで『偏在』による襲撃が?
いえ、違います。
その答えはすぐに出ました。
ギュオルルルルルルルルルルゥ~~~~~~~ッ!!
「はうっ!!」
ワルドのお腹から物凄い音が響きました。
お腹とお尻を手で押さえ、前屈みで内股になったワルドが、素敵な呻き声を上げます。
「お、おお、おおおぅっ! は! 腹が!」
突然の腹痛にワルドさん、顔面蒼白脂汗ダラダラ。
「「・・・・」」
「・・・トイレは階段の中頃にありますよ、子爵」
「すっ、すまないっ! はうぉっ! おおお、い、急ごう、しょ、諸君!」
トイレか?
マリー・ガラント号か?
うひひひひ。
彼方は気付いてなかったでしょうが、朝飲んだのは遅効性の下剤、夕方飲んだのも下剤です。
ついでに、食後に飲んだ紅茶にも下剤が入っていたのですよ。
さあ、存分に苦しむがいいです。
おほほのほ。
「追っ手が来るかもしれません! 急ぎましょう!」
「え? で、でもワルドが・・・」
「そうだぜ、ザザ」
「だ、大丈夫だ諸君。んほぉうっ!」
ルイズと才人くんに心配されながらも、ワルドはよたよたと歩き始めます。
『僕に構わず先に行け』とは言えないでしょうね、髭。
うひゃひゃひゃ。
「さあ、早く! 急いで、子爵! あと少しでトイレです!」
「もうちょっとだ! ガンバレ、髭の人!」
「そうよ、ワルド! あと少しよ!」
「んぎぎぎ、ふぬぬぬぅ・・・・」
悶絶するワルドに声援を送りながら、ボクらはグラつく木の階段を上ります。
足元が揺れるのが辛いらしいワルドさん、ほとんど四つん這い。
なんでグリフォン呼ばないんでしょうねぇ、この髭?
まあ、ボクのマローダーは既にフネへと移動していますが。
「っ!? 相棒! 構えろ!」
突然、デルフリンガーが叫びます。
階段の向こうには、白い仮面をつけた人物が!
杖をこちらに向けて、呪文の詠唱に入っています!
「サイト! 魔法が来るわ!」
「おうっ!」
才人くんがデルフを構え、先頭に立ちます。
ボクもすぐに杖を抜いて呪文を唱えます。
唱えたのは風の初歩『ウインド』。
襲撃者の足場を揺らすためだけに使います。
「『ライトニング・クラ・・・おほぅっ!」
よし、白仮面の発動を邪魔できた!
「今だ! 才人くん!」
「任せろ! おりゃああっ!」
電撃を放つ呪文『ライトニング・クラウド』が不発に終わった白仮面へと、才人くんは駆け出します。
螺旋状の階段ゆえ、相手はかなり先。
才人くんは『ガンダールヴ』の力を発動させ、全力疾走しました。
当然、ボクらの足元はグラグラ揺れます。
「くうっ!」
「うあぁ、ゆ、揺らさないで、く、くれたまえぇ」
白仮面の悔しそうな吐息と、ワルドの悲鳴が響きます。
その間にボクは、左手で新型拳銃を抜きました。
狙うは襲撃者のお腹。
BANGっ!
「ぐあっ!」
惜しい。
わき腹をかすっただけか・・・ん?
相手の動きがヘンだ。
ブビュ!
ブリブリブリブリッ・・・。
「んがあああああっ!」
おや?
白仮面が突然蹲って叫び始めましたよ。
そこで、ようやく白仮面へと接近できた才人くんでしたが、斬りかかることなく自分の鼻を摘みます。
ああ、そういや分身である『偏在』も本体と同じ健康状態になるんでしたね。
どうりで、『ウインド』如きで呪文の発動を邪魔できた訳です。
あの『偏在』も、本体同様トイレを我慢していたのでしょう。
それで、わき腹への刺激で・・・漏らした、と。
うわ、悲惨!
「何をしてるんだ、才人くん! 早く杖を取り上げるんだ!」
「そうよ、サイト!」
「あ、あぁ・・・いいのかなあ? なんか、可哀想だぞ」
「ぐ、ぐおおおおっ! く、くそぉっ!」
シャレですか、『偏在』ワルド?
声がワルドと同じだから、ボクには正体丸判りだぞ。
まあ、その間にボクは、弾丸を詰めなおしますが。
コルト・パイソン?
それはここで出す気ないです。
秘密兵器ですからね。
「ていっ!」
「ぐはあっ! ひ、卑怯だぞ、貴様ぁ!」
才人くんに蹴りを喰らい、ゴロンと倒される『偏在』ワルド。
うわあ、マントの隙間から湯気が洩れてるわ。
えんがちょーっ。
「捕まえて、サイト! きっとアルビオンの貴族派よ!」
「え~~っ!?」
嫌そうだな、才人くん。
ボクも嫌だがね。
「おのれっ!」
「「あっ!」」
才人くんが躊躇した隙を狙って、『偏在』ワルドは階段から飛び降りました。
嫌な湯気の軌跡を引いて。
まあ、いいか。
BANGっ!
「ぐはっ!」
はい、次弾命中。
『偏在』ワルドは暗闇に消えました。
「あれで終わりかしら?」
「判らない。兎に角急ぐしかないよ、ルイズ」
「ええ」
「ま、待ってくれ諸君・・・ううぅ」
「大丈夫ですか、子爵?」
「あ、ああ」
お尻を押さえてヘコヘコと歩くワルドの手を引いて、ようやくトイレに入らせます。
どうして、『レビテーション』かけて運んでやらなかったって?
襲撃の恐れがあるのに、余分な魔法は使えませんよ、うひひ。
通路内に響くワルドさんの呻きと便意のシーンは割愛。
「もう少しでフネです、子爵」
「あ、ああ」
ボクと才人くんの2人でワルドの身体を支えて、ようやく『マリー・ガラント号』へと到着。
ワルドさん、もうヘロヘロ。
早く水分補給させないと、アルビオンより先に天国に行きそうです。
「出港まで、フネに隠れましょう」
「いや、すぐに出発しよう。さ、先程のような輩がまだ近くに居るかもしれん」
ここまで演技できるとは、根性あるなぁ。
才人くんとルイズは、そんなワルドを心配そうにしています。
「ですが・・・」
「大丈夫だ。風のスクウェアの僕なら、『風石』が足りぬ分は補える」
強がるワルドと一緒にフネの甲板へと降りると、見張りの船員に出会います。
「なんでぇ、あんたら?」
「やあ、朝お邪魔した者です。夜分悪いけど船長を呼んできてください」
「船長なら寝てるぜ。用があるなら・・・っ!?」
ボクは船員に杖を向けました。
「船長を呼んでください。今すぐ!」
「き、貴族!」
船員は船長室へとすっ飛んで行きます。
すぐに、帽子を被った初老の男が、ラム酒の瓶片手にやって来ます。
「あぁ、朝っぱらの。で、何の用でございましょう?」
「すぐに出港させて欲しい。『風石』が足りぬ分は僕が補える!」
「なっ! そんな無茶な」
ワルドの物言いに、船長が目を白黒させます。
「運賃は3倍出します。すぐに出港の準備を!」
「へ、へい。それならなんとか」
ボクが懐からエキュー金貨の入った財布を袋ごと渡すと、船長は銅鑼声を張り上げながら眠った船員達を起こし始めます。
「手前ぇら、出港だ! 出港!」
「ふう。これでなんとかなるな」
「ですね、子爵」
船員達が出港準備を始める様を眺めながら、ボクらは一息つきました。
口笛を吹いて、グリフォンとマンティコアを呼び、合流。
マンティコアのマローダーは、この時より前に、一抱えもある袋を持参しています。
ただ、マローダーの持ち込んだ袋に気付いた者はいません。
なにせ、このフネの船員達は船長を含め、全てボクの息がかかった人達ですから・・・。
帆と羽が風を受け、ぶわっと張り詰めると、フネが動き出します。
『桟橋』である大樹の枝の隙間に見える、ラ・ロシェールの灯かりが、ぐんぐん遠くなっていきました。
かなりのスピードですね。
帆と羽に必死で『風』を送るワルド子爵、乙。
「んあぁ~~~~っ」
もはや満身創痍のワルド子爵。
船室のベッドで、船医に看病されております。
ルイズと才人くんの2人はさっさと就寝。
ボクも寝る事にします。
翌朝、ボクは1人になると、マローダーの持ち込んだ袋の中をチェック。
傭兵メイジの衣装を脱ぎ、袋の中に入れていた衣服に着替えます。
はい、着替えた服は、ガスコーニュ家臣団制服。
マントもシュバリエのものに着替えます。
そして、腰のホルスターには、コルト・パイソンを追加装備。
原作第二巻最終戦に向けての準備を行いました。
「さて、才人くん達はどうしてるかなぁ?」
先にワルド子爵の部屋を覗いてから船内をブラブラします。
子爵は可哀想にグロッキー状態。
あの様子だと、半日は寝込んだままでしょうね。
「外かな?」
2人が部屋に居なかったので、甲板へと足を運びます。
甲板に出ると、青空と白い雲が、視界いっぱいに飛び込んできました。
フネは雲の上を滑るように進んでいます。
「アルビオンが見えたぞーっ!」
見張りの船員が大声を上げます。
フネの向うはるか先に、巨大な壁が見えます。
いえ、壁ではなく、それは宙に浮く大陸。
浮遊大陸アルビオン。
朝日を浴びて、視界の続く限り延びているアルビオンの様は凄いの一言ですね。
「は~っ、いつ見ても絶景だねぇ・・・・おや?」
フネの前甲板側にルイズ達がいます。
アルビオンを見た才人くん、かなりハイ・テンションみたいですね。
「すっげーっ! ラ○ュタは本当にあったんだ!」
「なによ、それ? あれが、アルビオンよ、サイト」
ベタだなあ、才人くん。
「おはよう、ルイズ。それに才人くん」
「おはよう、ザザ」
「おは・・・って、なんだその格好は?」
おやおや、ボクの服が何か?
「これはガスコーニュ家臣団の制服だよ、才人くん」
「・・・どこのチョビ髭総統の手下だ、ザザ?」
「格好イイだろう?」
「・・・いや、まあザザがそう思ってるんなら、カッケーよ」
なんだ、その反応は?
「ザザの趣味はともかく! なんで、あんただけ着替えてんのよ、ザザ?」
「ん?」
「あっ!? 本当だぜ。俺ら昨日、ほとんど手ぶらだったじゃねぇか!」
「そうよ、そうよ! わたし達、自分の杖ぐらいしか持ち出せなかったのよ! 説明なさい!」
「君らが宿で寝込んでいる間に、先に積み込んだだけだが」
「「ずるいっ!」」
おいおい、サラウンドで怒鳴らないでよ。
「わたし達、昨日の騒ぎで埃塗れなのよ!」
「そうだ、そうだ。俺だって汗だくになったんだぞ!」
「そんな事言われてもなあ」
「「自分ばっかりずるい!」」
仲いいな、君ら。
まあ、昨夜のワルドのアレ見たら、ルイズも興味を失うか。
才人くんとこのまま仲良くなっておくれ。
「はっはっはっ、まあ、向こうで着替えを手に入れようじゃないか?」
「う~っ」
「なんか、納得いかねぇ」
2人とも、ちょっと怒ってますね。
でも、もう少しの辛抱じゃない。
我慢してちょ☆
「それよりも、ご飯にしようよ。ねっ」
「しょうがないわねぇ」
「だな」
折れるの早っ。
昨日は、走りまくったからこれは当然か?
まあ、いいや。
「右舷上方の雲中より、フネが接近!」
船室に戻ろうとしていた時、見張りの船員が大声を上げました。
お?
もう、ウェールズとの遭遇かな?
船員が言った方角を見ると、真っ黒なフネが一隻近付いてきますね。
ボクらが乗ったフネより、一回りも大きく、舷側に開いた穴からは大砲が突き出ています。
ふむ、あれが『イーグル号』かな?
違ったら大事だぞ。
なにせ、このフネは大砲が3門しか装備されてないからねぇ。
普通の空賊だったらお手上げです。
「へえ、大砲なんかあるんか」
暢気だなあ、才人くん。
ルイズは眉をひそめてますね。
「いやだわ。反乱勢・・・、貴族派の軍艦かしら」
さあ、どうでしょう?
取りあえず、『遠見』の呪文を唱えましょうかね。
空気をレンズのようにし、光を屈折させて、遠くを見ることができる『風』系統の呪文です。
「ん~~~っ」
「どう、ザザ?」
「もしかして、俺らが乗ってるフネってヤバイのか?」
真っ黒なフネには、屈強な男達の姿。
フリント・ロック式の拳銃に斧、カトラスといった武装をしています。
が、杖を持った人間も多いですね。
男達の顔を一人一人確認。
「どうなの、ザザ? 相手は貴族派? それとも空賊?」
「空賊・・・って、空に海賊みてえなのがいるのか?」
「静かに! 術に集中できない!」
ルイズだけでなく、こちら側の船員達も騒ぎ始めます。
船員の1人が、ボクの方へと走ってきました。
「ミス・ガスコーニュ。どう対処しますか?」
「早く決めて、ザザ! 危険だわ」
「おいおい、傭兵の次は空賊かよ!?」
「待って、もうちょい見るから。ん~~~っ・・・おっ?」
よしよし、目標の人物発見。
「裏帆を打て! オニオン・フラッグ上げ!」
「はっ!」
「「?」」
ボクの言葉に船員がすぐに駆け出しました。
ルイズと才人くんはキョトン。
さあ、いよいよウェールズ皇太子との面会ですよ。
「お、オニオン・フラッグぅ~っ?」
「なんだそりゃ?」
五月蝿いよ、2人とも。
<続く>