続きですw
ZEROの使い魔の世界に転生しました
第2話 追い出された!?
こんにちは、ザザ・ド・ガスコーニュです。
ある日の朝、ボクは父上に呼び出されました。
珍しく執務室の椅子に座る父上にビックリです。
父上の横には、殺人犯みたいな怖い顔をしたメイジが立っています。
家臣なのでしょうか?
「父上、何か御用でしょうか?」
「・・・・」
はて?
なんでいつも以上にムスッとしているんだろう?
「レイモン」
「はっ」
「連れて行け」
え?
レイモンと呼ばれた怖い顔をした男に、ボクは荷物のように抱え上げられると執務室から退場する事になりました。
訳が解りません。
体勢が辛いので声をかけます。
「すいません、えっと・・・レイモン様?」
「なんだ?」
「逃げずに従いますので、降ろしてください」
「・・・」
無言で床に降ろされます。
そのままレイモンさんはスタスタと歩き始めました。
説明も無しに。
歩幅が違うので小走りで追いかけます。
「うわぁ~」
屋敷の表門からボクは外に出て声を上げました。
始めての外出です。
今まで庭までしか出歩いた事のないボクには新鮮な感動でした。
驚きの声を上げるボクを一瞥すると、立ち止まる事なくレイモンさんは構わず歩きます。
「あ・・・待って」
ボクは彼を追いかけました。
目的地まで40分程かかりました。
途中何度か咳き込みながらのマラソンです。
レイモンさんは時折立ち止まってはくれるものの、ボクに絶対手を貸しません。
彼が目的地の建物に入った途端、ボクはそこで倒れ込みました。
「今日から、ここがお前の家だ」
猫みたいにボクの襟首を掴んだレイモンさんは、建物の中を歩きながらそう説明しました。
息も絶え絶えで身動きとれないボクは反論や質問すらできません。
「ゼ~ゼ~・・・ゼ~ゼ~・・・ヒュ~ッ」
「昼メシまで休んでろ」
「ウイ」
3疊程しかない物置みたいな部屋にボクを放り込むと、レイモンさんは行ってしまいました。
部屋にはベッドが1つとタンス、それに机と椅子だけとシンプル。
窓は1つあるけれど、隙間風吹く小さな窓です。
当然、ガラスなんか使われてません。
室内を見渡しただけで、ボクは床に投げ出せれたままお昼まで寝込みました・・・。
身体弱すぎ。
ここに来て、ボクは悟りました。
もうお屋敷に戻る事はないだろうと。
おそらく、父上はボクを見捨てたのでしょう。
そうする理由があり過ぎますから、ボクは。
周りと違う容姿、書庫の本全てを読む高い知能、メイジに生まれながら魔法が使えない、虚弱体質で長生きできない・・・。
でも、そうなったとしても、ボクはあまり哀しいとか思いませんでした。
初めから嫌われてたのですから、むしろ清々した気分です。
母上に会いたいと思わなくはないですが、元気なミレーヌもいる事だし、心配していません。
むしろ忘れて下さいって気分です。
母上を思うと、少しだけ目がウルッとしましたが、それだけでした。
『前世の記憶』がある所為か、どうも感情がドライなんです。
兎に角、この日からボクの生活は一変したのでした。
ボクの住むことになった建物は、ガスコーニュ家臣団本部です。
ガスコーニュ家の内政及び守備を司る重要拠点であります。
トップは2人。
レイモンさんとボリスさん。
レイモンさんは風のトライアングルメイジでガスコーニュ子爵領の警備隊長を務めています。
なんでも昔は傭兵をやっていたそうです。
無口で無表情ですが、部下の信頼は厚いようで、見た目程悪い人ではなさそうでした。
ボリスさんは水のトライアングルメイジ、こちらは荒事が苦手な内政型の家臣。
この人がいないとガスコーニュ子爵領は潰れるとまで領民から噂されるほどの好人物らしく、まともそうな方でした。
病気治療や怪我の回復に優れた方で、領内で無料同然の医療行為をして領民から慕われているそうです。
水メイジの治療費は凄く高いらしいですから、慕われるのも納得ですね。
しょっちゅう倒れるボクの主治医も兼ねてます。
本来なら、ここに次期領主の長兄セヴランがいないといけないのです。
まだトリステイン魔法学院に在席しているとはいえ、夏季休暇になっても帰ってきません。
聞く所によると王都トリスタニアに行ったまま帰っていないそうです。
なんでも王立劇場に歌手として入団するとか言って、学院サボってプチ家出中との事。
まあ、楽器演奏は兎に角、あの騒音のような歌唱能力では絶対無理でしょうね。
大丈夫か、ガスコーニュ領?
で、ボクの処遇はと言えば、レイモンさんの従者見習い扱いとなりました。
普通の5歳児なら、泣き喚くだけの状態でしょうね。
ですが、ボクは普通の5歳児ではありませんので、初日から仕事を覚える事に奔走するのでした。
舐めるな、ですよ。
朝早く起きて、ラジオ体操。
台所で家臣団詰所に寝起きしている団員達の朝食を作り、食後は大量の汚れた食器洗い。
レイモンさんが鍛錬する時は必ず参加、書類整理の時は見学とお茶淹れ。
お昼ご飯は、当番の団員さんのお手伝い。
夕方まで、鍛錬か事務仕事。
夕ご飯も当然お手伝い。
夜は魔法の練習か勉強をして就寝。
これが6歳になるまで続きます。
始めの頃は慣れないのかミスばかりして『役たたずのガキ』と兎に角怒られました。
5歳児の仕事にしてはハード過ぎるのです。
特に、レイモンさんから習う軍杖の鍛錬は実践形式。
一瞬の油断で死が見えます。
1日置きにぶっ倒れては高熱を出す虚弱体質児に何させるんでしょうね。
慣れるまでひと月かかりましたよ。
半年間の3分の1は死が見えかかる生活って、どんだけ?
レイモンさん指導の軍事教練は毎日半殺し状態ですよ。
それでも、逃げ出さずに生き残る自分に『頑張った』と褒めてやりたい・・・くくくっ。
生き残って半年、仕事を覚え始めると周りの評価も変わるものです。
『役たたずのガキ』から『算盤兎』とクラスチェンジしました。
なにせ、レイモンさんはガッチガチの武闘派。
事務仕事が苦手なのです。
ボリスさんは得意なのですが、幾つも処理しないといけない仕事が多く、流石に丸投げできないのです。
そこで、日本で中校生並みぐらいは算術ができるボクの出番と言う訳ですよ。
レイモンさんに回される書類仕事は9割任される事となりました。
だけど、軍事教練は必ず受けさせられています。
『それはそれ、これはこれ』だそうです。
容赦ねえぜ。
こんな毎日を送っているために当然、遊ぶ暇なんてありません。
同年代の友達もいません。
周りは全部厳ついオッサンだらけです。
友達欲しい・・・。
そんな思いは他所に、死と隣り合わせの日々は続くのです。
身体弱いわ、毎日半殺しにされるわで、普通なら諦めて絶望しているでしょうね。
どうしてそんな環境に耐えられるのか?
理由は簡単。
自分が主役だからですよ!
ハンデキャップや苦難を乗り越える・・・燃えるシュチエーションじゃないですか。
物語の主役は、ルイズと才人。
でも、ポクの人生の主役はポクじゃないですか。
負けるものか、です。
『真っ白に燃え尽きるまで、生き残ってやるっ! ・・・・あっ、もう身体は真っ白か』
うああぁ、せめて16まで生き残りたいよおぉ。
こうして、ボクの日常は超ベリーハードです。
毎日の鍛錬でライフゲージが0寸前まで追い込まれ、ボリスさんの治療で8割程回復。
当然、家臣団のお手伝いもやってます。
サ○ヤ星の生まれだったら、今頃スーパサ○ヤ人に成りそうなぐらいハードです。
ボクはメイジとはいえ人間なので、戦闘力0が5になった程度でしょうか?
『ブレイド』を使った戦闘なら、レイモンさん以外のメイジに勝率5割で勝てるようになりました。
ただ、レイモンさん以外は近接戦闘がヘタレなので、あまり強くなった気がしませんが。
そうそう、6歳の誕生日にレイモンさんからプレゼントを貰いました。
ズシリと重い鉄のナイフです。
考えたくはありませんが、自害でもしろと言うのでしょうか?
試しに『自害用ですか?』と聞いてみたら、普段無表情のレイモンさんは見てわかる程酷く動揺していました。
冗談抜きで自害用のようです。
なにせボクは『忌み子』。
服装も男装で、実名を名乗る事さえ許されず、周りから『ウサギ』と呼ばれており、体中痣だらけの何時死んでも構わない境遇の腫れ物扱いですから。
反抗や脱走もせず、真面目に仕事をするボクに、レイモンさんを含めた家臣団一同から同情されているのも知っています。
ですが、領主の命令なので扱いはかなりぞんざい。
ボクは本当に父上に嫌われているんだなあと、少し呆れてしまいます。
「ありがとうございます、レイモン隊長」
それでもボクはお礼を言います。
なにせ、ここに来てから小遣い1つ貰えない生活ですので、高価な品は大歓迎です。
鞘から出して刀身を見ると、素人目にも解る程丈夫そうな一品でした。
ラッキー。
そんな半年ですが、良い事だってあります。
4系統の魔法が初歩ですが使えるようになりました。
教師はレイモンさんとボリスさんです。
レイモンさんは主に戦闘用。
ボリスさんは薬草知識を含む便利魔法。
レイモンさんに半殺し→ボリスさんから『ヒーリング』→回復後も半殺し→ボリスさんから『ヒーリング』。
と、FF2ならどんだけ成長すんだよって言いたくなるスパルタ生活ですよ。
メイジに必要な精神力も上がると言うものです。
まあ、そうは言っても、常にレイモンさんに扱き使われている訳でもありません。
レイモンさんは2月置きに領地巡回へ出かけるので、その間はボリスさんとお留守番。
なにせよく寝込むボクを連れ回す事は、死に直結しますからね。
思えば、気を使ってくれたのかしれません。
まあ、剣の鍛錬は自主的にしてましたけどね。
ボリスさんからは、『頼むから剣じゃなくペンを握ってくれ』と何ども泣き付かれました。
領内の金策に必死なので、ボクの手伝いがかなり有り難かったようです。
彼はいつもボクに優しくしてくれるので、大好きです。
手伝いのお駄賃に、魔法の勉強を手伝ってくれるのです。
良い人です。
こうして、事務仕事の傍らに、ボリスさんから魔法を教わるようになりました。
さて、得意な系統魔法を知っている方がコモン・マジックを使うとき使いやすいと言います。
更なる成長を期待し、使えるようになった系統魔法をボリスさんに見てもらいました。
「『アース・ハンド』」
地面から土でできたちっちゃい腕が生え、ボリスさんの足を捕まえます。
彼が足をちょっと動かしただけで、腕は簡単にボロリと崩れました。
唱えるのに結構身体に負担もかかるので、ボクは土系統が苦手っぽいですね。
「『ファイアー・ボール』」
杖の先から小指の爪程の火の玉が飛び出し、ヒョロヒョロ~~ッと蝿が止まりそうな速度で1メイル程飛んで消えます。
ボリスさん、身体をクの字にして必死に笑いをこらえています。
火も苦手と判明。
「『ウィンド』」
杖の先から風が起こります。
超超微風が・・・。
「『コンデンセイション』」
空気中の水分を集める呪文を唱えます。
杖の先がちょっぴり濡れて終わり。
「ゼ~ゼ~・・・」
呪文の効果も問題ですが、半端なく疲れました。
ついでに気分が凄く凹みます。
ボリスさん、ボクを冷や汗かきながら見て言いました。
「ウサギくんは、4系統全てが苦手のようだね」
「ううっ、そ、そうみたいです」
「でも、逆に考えると、それは君の武器になるよ」
「そうですか? 凄く疲れるし、魔力自体かなり弱いですよ、ボク」
実際そうだった。
4系統が一応発動するようにはなったが、威力が凄く弱いのだ。
ボリスさん曰く、ボクは使用する精神力が人の倍使って唱えているように見えるらしい。
よくある例え話をしよう。
火と水、地と風は相反する属性で、火が得意だと水が苦手となり、逆もまた然り。
苦手な属性は、メイジによってはまったく使えないものになるらしい。
現にボリスさんは、火が初歩の『発火』しか唱えられないそうだ。
レイモンさんは風属性だが、こちらは風以外からっきし。
複数の属性を成長させるのは難しいとの事。
ボクの場合は4系統全てが苦手の代わり、性能や威力が均等に育つそうだ。
「今はそうかもしれない。だけどね、4系統全てが均等に使えるんだ。時間をかけて鍛えれば、君はきっとオールド・オスマンに匹敵する偉大なメイジになるだろう」
「時間をかければ・・・ですか?」
「っ!? す、すまない」
「いいんです。気にしないでください」
ボクの寿命に気付いて、ボリスさんは言葉を詰まらせた。
水メイジの彼は、ボクの命がそう長くない事を誰よりも知っているのに・・・。
気まずい雰囲気の中、この日の授業は終了しました。
これで、もう彼から魔法を教わる事はないでしょうね。
そう、諦めていた翌日、彼は言いました。
「剣と軍杖の稽古が終わったら、昨日の続きをするよ」
「えっ!?」
驚きました。
彼は教えてくれると言うのです。
「どうしたんだい? もう、メイジになるのは諦めたのかな?」
「いえ、諦めてません」
「だったら、練習だ。君に残された時間は少ない」
「いいのですか?」
「勿論さ。ウサギくんが何を目的に日々頑張っているかは知らないが・・・。努力する生徒を簡単に見限る程、冷たい人間ではないつもりだ」
「ありがとうございます」
「ははは、じゃあ今日も頑張ろう。いいかな?」
「はい」
ボリスさんの授業は終わる事なく再開されました。
ボクは2人の教師を得て修行を続けます。
この日からボリスさんも魔法を教える時は基本Sだと判りました。
今までは真面目に教える気がなかったとか。
軍事教練ばりに、ボクは毎日虫の息まで叩き上げられます。
こうした修行のおかげで、ボクは4系統全てドットへとなりました。
辛い日々ですが、成長する喜びが辛さを忘れさせてくれます。
相変わらず『ブレイド』以外はヘッポコですけど、修行が少しは楽しくなりました。
え?
苦行じゃないかって?
ノンノン、あくまで修行でしゅよ。
ええ、修行。
あれれ、おかしいな、目から涙が・・・。
<続く>