第二話の後編です。
オセのカメラ
第二話 闖入者 前編の続き
「デジカメ返した途端、『うっそぴょーんっ!』とか言って殺さないって約束してくれる?」
「チィィィッ! ・・・あぁ、はいはいお約束致します。我輩は魔界の統領ゆえ、契約と約束は守るのじゃ」
今、すげー舌打ちしたよな?
こっちから約束してって言わなかったら、オレを亡き者にする気満々だったな、コイツ。
やはり悪魔なだけはある。
言葉は慎重にした方がいいな、こりゃ。
その後、オレは慎重にメモを取りながら、オセといくつかのやり取りをした。
悪魔との交渉に、終始緊張しっぱなし(?)だ。
そして、30分後。
交渉は纏まった。
「ぬぬぬ・・・・仕方あるまい。汝の提示した条件で良いっ!」
「ありあとーっ!」
「すまぬが、ミケと変わっておくれ・・・いや、下さい」
「はいはいっ」
ムニャムニャ気持ちよさそうに眠るミケを揺すって起こす。
「起きな、ミケ。統領が代わってくれとさ」
「ウニッ?」
「電話だよ、電話」
「もしもし~~~~?」
コイツ、ガチで寝てやがったのか?!
まぁ、ニャンコだししょうがないか。
「・・・で・・・・・だ。よいな。・・・天使・・・速く・・・だぞ。判ったな?」
「ムニムニ・・・フニャア~~~ッ!」
「聞いておるのかっ?!」
「判ったニャアァ・・・・フニャアアア~~~ッ!」
オセの声がちと聞こえ難いが、何かしらの指示を与えてるっぽい。
まぁ、
ミケの方は寝起きの所為か欠伸しまくりだが・・・。
ピッ
おっ?
ようやく電話が終わりか。
「で? オセさんは何って言ったんだ?」
「デジカメ持って妖精界に急いで来るようにって言ってたニャアアァ~ッ、ねむねむ」
「妖精界? 魔界じゃないの?」
「統領は妖精界まで迎えに行けるけど、こっちまで来れニャい。だから、妖精界までそれ持って行くニャ」
「今から?」
「そうニャ」
「もう夜の10時なんだけど・・・。ついで言うと、明日は仕事なんだけど」
「らいじょうぶニャ。『猫の道』であっと言う間ニャ」
「そうなん?」
「そうニャッ! ミケは早く寝たいニャ。天使に見つかる前に、さっさと行くニャ」
今度は移動かよ。
面倒くさい連中だな。
ん?
天使に見つかるって何だ?
オレが首を傾げてるにも関わらず、ミケはマイペースなまま玄関まで歩き始めていた。
それを、慌てて追いかけるオレ。
「なぁ、ミケ。天使ってのもいるのか?」
「ニャ?」
オレの質問にミケは、『ハァ? コイツなに言ってんの?』とでも言わんばかりの表情で返した。
まぁ、悪魔がいるんだし、天使がいてもおかしくないか・・・。
ミケの反応にちょっとイラッとつつ、戸締りをする。
オレが部屋の鍵をポケットに入れるを確認すると、ミケがオレの肩までヒラリと飛び乗り、小声で先程の問いに答えた。
「・・・天使達も、そのデジカメを狙っているニャ」
「ほう、大人気だな、これ」
天使が狙う理由が何かは知らないが、まあ悪魔の力が宿ってるデジカメだ。
遭遇しない事を祈るとしよう。
夜ゆえ、目立つような会話は避けた方がいいな。
それ以上は質問せず、オレはミケを肩に乗せたまま歩こうとしていた・・・。
と、そこに突然っ!
「見つけたぞっ! 卑しき人肉喰らいのオーガめっ! いくら巧妙に人に化けても、我が目を欺く事なぞ出きぬわっ!」
アパートの通路で大声で何者かに怒鳴られた。
声の方向を見ると、金髪で褐色肌の如何にも女装してますといった若い男が立っている。
しかも、明らかにオレを指差している。
今日はよくよく変わったヤツらに声をかけられるなぁ。
「あのぉ、夜に大声出すの止めた方がいいよ。近所迷惑だし」
「黙れっ! 邪悪なオーガめっ! 我が浄化の炎で燃やしつくてやるわっ!」
「オーガって誰やねんっ?!」
「あんただと思うニャ」
「失礼なオカマだな。この顔は自前だぞ。いあ、その前に、近所迷惑だっ! 警察呼ばれる前に消えろっ!」
「フッ、化けるだけでなく、人族の法の番人を利用する知恵まで持っておるとは・・・」
人の話聞かないタイプだな、コイツ。
絡まれるのも嫌なので、110番して逃げるとするか。
オレは携帯電話を取り出そうとした。
すると、
「ウリエル・ファイヤーッ!!」
ゴウッと、女装男の手から炎の矢が飛び出し、オレの携帯を一瞬でオシャカにしてくれた。
機種変更したばっかりなのに・・・。
いあ、それどころではないっ!
「うわぁっ!!」
「早く逃げるニャッ!!」
オレはすぐにミケを抱いて、2階通路から1階に飛び降りた。
本当ならしたくないが、階段がある方に女装男がいるのでそうしたのだ。
ズゥンッ・・・・!!
着地と同時に脚から脳天へと衝撃が来る。
おかあさん、頑丈に生んでくれてありがとうっ!
ふらつきながらも、ダッシュでアパートを後にしようとするっ。
・・・が、
「逃さんっ! 超っ! ウゥリエェェェルゥゥッ・ファイヤーッ!!!!」
女装男の叫びと同時に、オレの背後から強烈な赤い光が襲いかかかるっ!!
走り出してるので、よく判らないが、きっとさっきより大きい炎がオレに迫っているに違いないっ!!
カッ!!
光と熱、そして衝撃がオレを襲う。
「------ッ!!!!」
自分の叫び声すら声にならない。
真っ赤な光の奔流に飲み込まれ、オレは天地がどちらを向いているか判らない程、回転しながら爆風に吹き飛ばされた。
薄れ行く意識の中、
「あぁぁぁ、こんなに回れるんだぁぁ・・・」
と、ギュルギュルと回転して宙を舞った。
・・・続く