ようやく無印第一話か・・・。
第8話・リリカルマジカル
フェレット(?)を槙原動物病院に預けた後、俺は1人で帰宅。
結局、なのはちゃん家の道場へは行っていない。
一応電話連絡はしているので、特に問題はないだろう。
別に俺は『御神流』の門下生じゃないからね。
まあ、電話してみたら、恭也さんも美由希さんも翠屋のお手伝いに行っていたそうなので、問題はなかったそうだ。
帰宅してからお風呂に入り、それから晩御飯を食べる。
お父さんが珍しく定時あがりだったので、数日ぶりの一家団欒だった。
今日あった出来事を両親に話す。
念話を送ってきたフェレットの話もした。
うちの両親は俺が『魔導師』だと理解しているので普通に『魔法』関係も話している。
ただ、うちの両親は俺が『将来は手品師だね』ぐらいにしか考えてないような気がしないでもないが・・・。
「フェレットかぁ」
「うん」
「可愛いとはいえ、このはと同じ『魔導師』を飼うのはちょっと・・・。うちは普通のマンションだし、何かあった時とかなぁ・・・責任とか取れないよ」
と、お父さんの反応は普通。
「フェレットねぇ」
「うん」
「念話ってテレパシーみたいなのでお話するんでしょ? メルヘンねぇ」
と、お母さんの反応は普つ・・・いや、おかしい。
結局、引き取り手がいなかった時だけ、幾日か預かるぐらいの対応しか出来ないとの事。
お母さんはフェレットという生き物が好きなのか、やたら飼いたいと叫んだが、流石に『魔法』を使うようなペットは怖くて飼えないとお父さんが断っている。
フェレットが人様に迷惑をかけない良い子ならいいんでしょ、とお母さんは最後までしつこかったなあ。
気持ちは解らんでもない。
実際、見た目は可愛かったしね。
ただ、1つ疑問がある。
たった一匹で、俺よりも魔法の能力が高そうなフェレットが何故あれほど衰弱していたのか、だ。
デバイスのライと相談してみたのだが、検証に必要なデータが足りないとの事ので意見は控えると沈黙。
俺が考え付くとしたら1つある。
それは、『魔法』を使うフェレットの敵の存在だ。
話は少し変わるが、俺が覚えた魔法は『ミッドチルダ式魔法』というヤツで、ライが作られた次元世界ではポピュラーなものらしい。
そして、その次元世界の魔法知識の中には2つおもしろいものがある。
まず1つ目は、『非殺傷設定』。
物理破壊を伴わない魔力衝撃で、敵を死傷させずに攻撃する方法がとれる。
2つ目は、『バリアジャケット』。
魔力による防護服を生み出す。
フェレットの受けたダメージからすると、物理と魔力衝撃の両方を受けたような症状だとライは言っている。
まあ、フェレットとその敵が、そういった魔法の使い手であるならと条件がつくのだが・・・。
これ以外に何か原因はあるのかねぇ?
ライ曰くいくつか他の候補もあるようだが、不確かな情報を言い合う趣味はないと黙して語らない。
やれやれである。
パラリロパラリラペロ~♪
どっかのイタリアンマフィアのテーマソングが突然、部屋に流れた。
おっと、携帯電話にメールが届いたようだ。
この着メロ恥ずかしいな。
これ入れたのお父さんだけど、子供の携帯が流す曲じゃねぇだろと言いたい。
ちなみに電話の着メロは宇宙戦争に出てくる黒い人のテーマソング。
お父さんの趣味がよく解らない今日この頃です。
ピッ♪
おや、なのはちゃんからのメールだ。
どれどれ・・・。
「ふ~ん、向こうも似たようなもんか」
メールの内容は、フェレットの引き取りについてだった。
どうやら、なのはちゃんの方も似たり寄ったりらしい。
しかし、なのはちゃん家、飲食店だろ?
大丈夫なのかな?
それと、アリサちゃんとすずかちゃんはそれぞれ家に犬と猫を飼ってるのでダメらしいと打ってあった。
なのはちゃん曰く、アリサちゃん家は犬屋敷、すずかちゃん家は猫屋敷で可愛いペットが大行進とか。
よー解らんが、2人の家には大量にペットがいるらしい。
一度見てみたい気もするが・・・いや、やめとこう。
2人の家って海鳴市でも有名な凄いお金持ちらしいから、行っても緊張するだけで終わりそうだ。
う~ん。
もし、あのフェレットが魔法を使う悪人だったらと考えてみる。
いかんせん、昨夜からSOSを求める相手だし、その可能性は低いとは思う。
どうしたものか・・・。
結局のところ、情報が少ないから判断できないという事か。
しかも明日には、俺かなのはちゃんが引き取る流れになっているから、考える時間もあまりない。
もし、なのはちゃんが引き取った場合、あのフェレットが原因で高町家に被害が・・・とか目が当てられないよ。
念話が出来る以上、対話は可能だよな・・・。
よし、夜遅いが、あのフェレットに会いに行ってみるか。
何か問題があってからじゃ遅いもんな。
「お父さん、お母さん」
「なんだい、このは?」
「どうしたの、このは?」
「あのフェレットと、ちょっと話し合ってみるっ」
「こんな時間にかい?」
「うん」
いきなりな事で、やはり外出はダメだろうか?
「いってきなさい」
「いってらっしゃい、このは」
「いいの?」
「本当はよくないんだけど、このはなら大丈夫・・・だろ?」
「そうね、このははしっかりしてるから。でも、危なくなる前に帰ってくるのよ。いい?」
「うん。ありがとう、お父さんっ、お母さんっ」
俺は急いで、動きやすい服に着替える。
まあ、ジャージですが。
「ついでに2丁目のコンビニで『とろりんとろけるプリン』買ってきてね♪」
「あぁ、じゃあ僕は、『大人のチョコパルフェ』を頼むよ。ほら、千円渡しておくから、お釣りはこのはのお小遣いにしていいぞぉ♪」
「・・・う、うん」
これって、ただのパシリでしょうか?
い、いや、違う。
両親が遅い時間出歩く俺に理由を作ってくれたんだ!
きっと、そうだ。
そうに違いないよ。
た、たぶん。
流石に薙刀(木刀タイプ)は持ち歩けないので、今回は素手。
あのフェレットと戦闘にならないとは思うんだけど、一応ライもいるからなんとかなるか・・・。
俺は槙原動物病院目指して薄暗い夜の町を駆ける。
昼間の人通りが多い時間とは違って、住宅街であるこの近辺は夜になると人通りがほとんどない。
物陰から物陰へ、リアル忍者ゴッコ状態で俺は走る。
うん、以外に楽しい。
おっと、冗談やってる場合じゃないか。
さっさと行こうっと。
動物病院まで後少しまで来た瞬間。
ガチャーーンッ!
ガラスの割れる音が、動物病院の方から響いた。
なんだ?
泥棒でもいるのか?
兎に角、様子だけでも確認しないと・・・。
『僕の声が聞こえるあなた。お願いです! 僕に力を・・・僕に少しでいいですから力を貸してください!』
むっ、突然の念話だ。
動物病院で何が起こってる?
さらに足を速める。
『お願いします! 時間・・・が』
「っ!? 何が起こったんだっ!?」
再度の念話に思わず声が出る。
それと、大きな魔力反応が2つ。
片方はフェレットだと思うが、もう1つはなんだ?
ズドオォォンッ!!
それと同時、爆発音のような物音が響く。
病院の敷地内にある木がズドンッと倒れるのが塀越しに見えた。
戦闘でもしてるのか?
それとも、治療費を払いたくないから先生を襲った?
いや、それはないな。
「被害が大きくなる前になんとかしないとマズイっ! 『結界』っ!!」
すぐさま俺は、病院を中心に結界を張る。
この結界魔法の良いところは、擬似的な空間を生み出し、そこに自身と魔力を持つものを移動させるところだ・・・だったかな?
ま、まあ、簡単に説明するなら、一般人の目を気にせず魔法を使える空間を生み出すって事だね。
しかし、これ疲れるんだよ。
俺の張る結界ってそれ程強固なものじゃないし・・・普段から自分に魔力負荷かけてた所為で、今日も俺の魔力量は朝から減ったままなんだよね。
「おっと、急がないとっ」
塀をヒョイッとジャンプして、病院の敷地内へ着地。
「なんだありゃ?」
そこには折れた木の上に立っているフェレットと、折れた木の下敷きになっている得体の知れない真っ黒い存在。
黒い存在は、よく見ると魔力の塊のようだ。
しかし、どういう訳かまるで生物のように蠢いている。
「ありがとうございますっ。来てくれたんですね」
「うぉっと!?」
黒い存在に俺がビックリしていると、それを無視したかのように俺の胸に飛び込んでくるフェレット。
取り敢えずフェレットをキャッチ。
「礼は後でいいっ。ありゃ、なんだ?」
「あれは・・・」
フェレットから話を聞こうとした瞬間、木の下敷きになってジタバタしてる黒い存在が木を下から持ち上げ、俺達の方へと突進してきた。
「危ないっ!!」
「あっ!」
俺はフェレットを塀の外へと投げ、自身も逃げようとし・・・・。
「GAAAAAAAAANッ!!!」
「ぐはっ!!」
ズドンッと凄い衝撃が逃げ遅れた俺を襲う。
まるで、白熊に打ちかましを喰らったみたいな一撃だ。
すんげー痛いっ!
しかも、塀に叩きつけてくれるとか、殺す気かっ!!
ドガラガラガラッ・・・・。
「ってーーっ。なんちゅう馬鹿力だよ、ったく。塀まで壊しやがって」
瓦礫と化した塀の中から、なんとか身体を出す。
あーくそっ、ジャージがボロボロだよっ。
あったまきたっ!!!
ぶっ飛ばす!!
「だ、大丈夫ですかっ!?」
「一応なっ!」
軽く身体を動かして、骨や筋肉に異常がないか調べる。
それをしながらも、視線は黒い存在から放さない。
「なっ! なにをする気ですかっ!?」
「そんなの決まってるだろ。一発ブン殴るっ!」
「危険ですっ! それにアイツは魔力の塊なんですっ!!」
「GRUUUUッ」
さっきは避けそびれたが、今度はもう喰らわん。
俺は呼吸を整える。
構えは不要。
必要なのは最小の力で大打撃。
全身に魔力を巡らせ、打ち込む拳の先端のみに魔力を籠め始める。
「GRAAAAAAAAAッ!!!」
「ふんっ!」
再度体当たりを仕掛けてくる黒い存在の動きに合わせて、俺は半歩踏み込む。
それと同時に突き出す拳は、螺旋を描くが如く相手を打ち抜・・・。
スカッ!
・・・打ち抜けませんでしたーっ。
ドガアアアァァアンッ!!!
「いってーーーーーーーっ!!!」
またまた吹っ飛ばされる俺。
原因は、拳の先端まできちんと魔力が籠もってなかった事。
魔力の残量も残り少ないしなあ。
やっぱり、素手だけじゃダメそうだわ。
【私の出番ですね、マスター】
「だね」
ライの言葉でようやく冷静になる。
よし、ライオンハートの力を借りて、思いっきり魔法を使ってみるか。
「我、使命を受けし者なり。契約の下、その力を解き放て。風は空に、星は天に。そして、不屈の心はこの胸に。この手に魔法を。レイジングハート、セット・アップ!」
ん?
今のセリフ、俺じゃないよ。
「・・・成功だ」
「ふ、ふえぇぇぇ~!? な、なにこれ!?」
そして、フェレットの安堵した声。
さらに聞き覚えのある声。
後ろをチラッと見る。
そこには。
電信柱の側に。
何故か。
なのはちゃんが居ました。
・・・・えっと。
どういう事でしょうか?
もしかして、今まで魔導師だと隠していたとか?
魔力全然隠してないのに?
今更かぁ?
ズドンッ!!
「GRAAAAAAAAAッ!!!」
「あだっ! 重っ!」
しまった。
なのはちゃんに意識が向いてい間に、また攻撃喰らっちゃったよ。
しかも、今度は圧し掛かり付き。
魔力の塊の癖に何で重さがあるんだよっ!?
あー、もうイライラするっ!!
「にゃああぁっ!? こ、このはくんがっ!」
「落ち着いてっ!」
「GRUUUUUUッ!」
プッチンッ!
「あーっ、もーっ、重いぃっ! ふんっ!!!」
あ、なんかキレたわ。
今日はバカの所為でストレス溜まってるからなっ!!
ようやく魔力が行き渡った拳で俺は一撃入れ、相手が怯んだ隙に、両手で黒い存在から生えてる触手を掴み、全力全開で持ち上げる。
ズズーーーンッ!
持ち上げた瞬間、俺の両足がアスファルトに膝まで陥没。
そんなのおかまいなしに、俺は黒い存在を頭上に振り上げる。
お前程度の重さぐらい、鍛えた俺は頑張れば持ち上げる事が出来るんだっ!
「はぁぁぁっ! ・・・どっこらしょっとっ!!」
ドガンッ!!
触手を掴んだまま俺は、反撃とばかりに黒い存在を地面に叩きつけた。
「GRAAAAAAAAAッ!!?」
「「・・・」」
【あ、あのマスター?】
「うるさい、ちょっと待て」
ブオンッ!!
ドガガガッ!!
さらに黒い存在を地面に叩きつける。
しかし、こいつ掴みにくいな。
よし、こっちに生えてる太い触手に持ち代えるか。
ブンッ!
ズガーーーンッ!
「GRAAAAAッ!! GRU・・・・・GA? GA!?」
「よしっ、ザマーミロッ!」
アスファルトに思いっきりめり込んで身動き取れなくなる黒い存在。
俺は埋まった自分の両足を引っこ抜き、さらに足に魔力を籠めてのストンピングを黒い存在へと敢行。
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ・・・・。
踏んで踏んで踏みつける。
おっ、なんか縮んだ。
俺の与えたダメージで魔力が拡散でもしたか?
よし、もっと踏みつけてやる。
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ!!
「「・・・」」
「GR・・U・・GA・・・・GU・・・・」
「ふぅっ、ようやく大人しくなったか」
あーっ、スッキリした。
はて、何か忘れてる気が・・・。
【セットアップしないのですか、マスター?】
「あ、ゴメン。忘れてた。ってか、魔力使い切っちゃってもうヘトヘトだ」
【・・・マスター】
「・・・ハッ! い、今のうちですっ! 彼女が抑えている間にシーリングをっ!」
「え? う、うん! リリカルマジカル!! 封印すべきは、忌まわしき器! ジュエルシード!!」
【シーリングモード、セットアップ】
「ん?」
振り返ると、光の帯が俺の方へと向って来るじゃないかっ!
「危なっ!」
バッ!
ガンッ!!
飛び退こうとしたら、陥没した地面に足を取られてアスファルトに転倒する俺。
しかも、顔面強打。
地味に痛いです。
「って~~~~っ」
【私は時々マスターのドジっぷりに呆れる時があります】
「ゴメンゴメン、久しぶりにちょっとキレちゃった」
【・・・最近は、よくキレてるように見受けられますが?】
「ほっとけ」
身体に付いた埃を払いながら立ち上がる。
うわぁ、ジャージが修繕しようがない程ボロボロになってるよ。
お母さんに怒られちゃうなぁ・・・・はぁ~っ。
「リリカルマジカル! ジュエルシードシリアルXXI! 封印!!」
【シーリング】
なのはちゃんの声と、デバイスらしき合成音が響く。
あら?
気が付いたら、あの真っ黒なのがいなくなってるよ。
その代わりかどうか解らんが、小粒な菱形の青い宝石が転がってる。
もしかして、アレが真っ黒なヤツのコアか?
「一体なんだったんだ?」
それを拾い上げようとすると・・・。
「それに触らないで!」
「あ、うん」
「急に叫んでしまってすいません。だけど、それに触ると危険なんです」
どうやら危ないものらしい。
フェレットは俺に注意を促すと、今度はなのはちゃんの方を向いた。
「それにレイジングハートで触れて」
「こ、こう?」
フェレットに言われた通り、なのはちゃんはトコトコと青い宝石に近付き、レイジングハートと呼ばれた杖型のデバイスをそっと近付ける。
そうすると、青い宝石はフワリと浮遊し、レイジングハートのコアに溶けるように中に入り込む。
あぁ、そういやライにもあんな感じで収納出来る機能があったな。
待機形態のままお喋り相手としてしかデバイスを使ってないからなあ、俺。
青い宝石がレイジングハートに取り込まれると、淡い桜色の光を放ち、なのはちゃんの服装が変わった。
あ、さっきまでバリアジャケットだったのか。
紛らわしいくらい学校の制服に随分似てたなあ。
「あ、あれ? これでお終い?」
「はい、二人のおかげです。ありがと・・・」
お礼を言った途端、フェレットは糸が切れた人形のように意識を失ってしまった。
恐らく今までの疲れで気を失ったんだろう。
それを見てなのはちゃんは慌てだした。
「にゃっ!? 大丈夫、フェレットさん?」
「なのはちゃん、その子は気絶してるだけだよ。それより、なのはちゃんの方は怪我してない?」
「う、うん、大丈夫。私はいいけど、それよりもこのはくんの方が大怪我してるのっ! ボロボロなのっ!」
「大丈夫。鍛えてるから。ほら」
心配してくれるなのはちゃんに、手足やお腹を見せる。
「ふえぇ~~っ? ちょっと腫れてるだけなの・・・・」
「うん、鍛えてるからねっ」
「いやいや、それは色々おかしいのっ」
「おかしくないよ。武芸者ならこれくらいじゃ大怪我しないよっ」
「・・・家のお父さん達も、こうなのかなぁ(ボソリッ)」
なんで不思議そうな顔してるんだろう?
おっと、その前に・・・。
「それよりも早く帰ろう、なのはちゃん」
「ふぇっ! なんで?」
「俺の張った結界がもう持ちそうもない。それに、こんな格好を誰かに見られでもしたら面倒な事になりそうだしね」
「・・・ウ、ウン、ソーダネ」
俺の張った結界は、真っ黒な存在がめり込んでいた場所を中心に縦横無尽に亀裂が走っていた。
それを見て、なのはちゃんは頬を引き攣らせる。
「じゃあ、夜も遅いし、帰ろう」
「うん」
結界の外輪部まで歩き、そこで結界を解除する。
世界に色と音が戻る。
住宅街に少なくない人の気配も戻った。
そして、遠くからサイレンの音。
「誰か通報でもしたかな? よし、走って帰るか」
「ふえぇ~っ? また走るのぉっ!?」
8話・リリカルマジカル・完