今日、公園で一服してたら
テンだかイタチだかが足元をチョロチョロっと走り去っていくのを見た。
可愛かったな・・・・。
第7話・フェレット
さて、社会の授業も終了してお昼休み。
気持ちいい春の日差しを浴びるために俺はお弁当を食べるために屋上に来ていた。
正確には俺達で、メンバーは俺と仲良し三人組。
ちなみに仲良し三人組に絡もうとする神條のバカは、マラソンが堪えたのかご飯も食わずに机で寝てる。
後、お弁当なのは、聖祥大付属小学校は給食がないからだ。
しかし、いくら転落防止用のフェンスが完備されてるからといって、よく屋上を生徒に解放してるなぁ。
問題ないのか?
まあ、今日みたいな陽気の中だとありがたいものではあるが・・・。
「将来の夢か・・・」
食事中、ふとなのはちゃんが呟く。
最後に先生が言った一言が気になっていたのかな?
気持ちは解らんでもないな。
俺も少し考えたからね。
「アリサちゃんとすずかちゃんはもう将来の夢は決まってるんだよね? それにこのはくんも・・・」
「一応ね。私はパパもママも会社の経営をやってるからたくさん勉強して後を継がないと」
「私は機械が好きだから工学系の専門職に就きたいかな」
アリサちゃんは兎も角、すずかちゃんはもう自分の将来の事を考えてるのか。
凄いな。
「うーん、俺は・・・」
「このはは聞かないでも解るわよ。薙刀の先生ね。だって、薙刀バカだものっ」
薙刀バカは酷いなアリサちゃん。
まあ、否定できないが。
「3人とも凄いね」
「いや、俺まだ答えてな・・・」
「薙刀の先生ね」
「・・・まあ、たぶん」
「ほれみなさい。で、そういうなのはは将来何になりたいのよ? 翠屋の二代目とか?」
「う~ん、それも将来のビジョンの1つなんだと思うんだけど、他にやりたいことがある気がするの。それがなにかはわからないけど・・・。それに私、なにも取り柄ないし・・・」
アリサちゃんの意見も尤もだけど、最後の取り柄なしは置いといて、迷っているなのはちゃんの意見も正しいと思う。
と言うか、小学3年生で将来のビジョンがハッキリ見えてる方がおかしい。
一部家庭の事情がある者を除いてだが。
どうも、この仲良し三人組の会話は時々ビックリする程大人びてる事がある。
いや、明らかに周囲の小学生と比べて精神年齢が上だ。
その所為で、周囲から浮いているような気がする。
だけど、彼女たちは周囲に合わせる事が出来るみたいなので特に問題は起きていないようだ。
正直羨ましいです。
俺、時々浮くからなあ。
ついでにあのバカは浮きまくっているので論外。
「ばかちんっ!」
「「「あっ」」」
ピチャ。
ん?
なんか左目に・・・。
「ぐぁぁああぁっ・・・・! 目がぁぁぁ、目がぁぁぁぁぁぁ・・・っ!」
突然眼が沁み、痛さで叫ぶ俺。
なんだよ、これ?
指で摘み取ると・・・スライスされたレモン。
「ご、ごめんっ、このは・・・」
どうやらアリサちゃんがなのはちゃんにスライスされたレモンを投げようとしたら、あやまって俺の左目に命中したらしい。
そんなに俺が嫌いなのか、君は?
おぉうっ、すずかちゃんから手渡されたお手拭用のウェットティッシュで拭き取っても、まだ沁みる。
っ!?
いや、ウェットティッシュの消毒液で、さらに眼がががが・・・。
「と、とにかく、自分から取り柄がないなんて事言うんじゃないの!」
「そうだよ、なのはちゃん。なのはちゃんにしかできないことがきっとあるよ」
「あう~~ぅ。そ、そうかな?」
「うぅ・・・まだ沁みる」
「うっ。だ、大体あんた、理数系の成績は私より良いじゃない。それなのになにも取り柄がないなんてどの口が言うのよ!」
「いひゃいっ」
「まあまあ、落ち着いて」
なのはちゃんの頬を掴むアリサちゃんの手をやんわりと押さえる。
食事中に暴れるなよ、お嬢様が。
彼女の横にいるすずかちゃんも笑ってないで止めてくれよっ!
って言うか君も俺が嫌いなのか?
ウェットティッシュの方がレモンより沁みたぞっ!
「・・・だって」
「いいから落ち着けって。お弁当箱さんがひっくり返るだろうが」
「あ、うん」
「助かったの、このはくん」
取り合えずアリサちゃんを落ち着かせる。
「いいかい、アリサちゃん。食事中に物を投げるな。暴れるな。ついでに、さっきのワザとだろう?」
「ごめん、このは・・・レモンを投げた事は反省するわ。でも、投げた事に後悔はしてないっ」
「・・・しろよ」
「いやよ」
「はぁ~っ」
・・・・。
ま、まあいいや。
アリサちゃんだからな。
「と、とにかくだ。なのはちゃん。アリサちゃんとすずかちゃんが言ったように、なにも取り柄がないなんて言っちゃダメだ」
「うっ、うん、解ったの。でも・・・このはくん、左目真っ赤なの」
「このはくん、目洗ってきたら?」
「後でいい。えっと、なんだっけ? 俺、何言おうとしてたんだか・・・あ、そうそう。俺達、まだ小学生なんだから、将来の夢とかはそんなに難しく考えるなって言いたかったんだ。・・・だったかな? これで合ってる?」
「「「このはくん・・・」」」
いかん。
俺の言葉に、仲良し三人組の反応が微妙なものに!
何で可哀想なものを見る目で俺を見るんだっ!
良い事言ったでしょ?
「そ、そうだよ、このはくんの言うとおりだよ、なのはちゃん」
「そうね、うん。あんたも良い事言うじゃないっ」
「最後がなんか締まらない気がするの・・・」
「「しぃっ、それ以上は言っちゃダメよ(だよ)」」
・・・君ら、俺の事、本当は嫌いなんだね?
そうなんだね?
ふっ、おかずの塩鮭が今日はやけにショッパく感じるよ。
さて、なんとも微妙なお昼が終わり、時刻は放課後。
塾へ通うらしい仲良し三人組に軽く挨拶してから、俺はダッシュで学校を飛び出した。
昨夜の念話の相手が気になっていたからだ。
途切れ途切れの言葉と一緒に送られてきたイメージは『森』。
よし、木々の多い場所を探そう。
「う~ん、どこだろう?」
取り合えず目に入った自然公園を駆ける。
途中で、犬に吼えられていたが、吼え返すとすぐに静かになってくれた。
ふむ、吼える犬には吼え返すと通じるらしい。
1つ勉強になった。
まあ、冗談だけどね。
『たすけて・・・』
と、唐突に俺の頭にか細い声が響いた。
念話だ。
この近くなのだろうか?
一応、送られてきた方角だけが解る程度なので位置が特定しにくい。
だけど、行くしかなさそうだ。
俺は木々で囲まれた自然公園の中をさらに駆けた。
『たすけて』
二度目の念話。
今度は、一度目よりもはっきり聞こえた。
どうやら、この方角で間違えてないようだ。
俺は駆ける。
【マスター】
「ん? どうしたライ?」
走っている途中、デバイスのライが俺に話しかける。
【通り過ぎました】
「えっ?」
ライの言葉に慌てて振り返る。
周りは木々で囲まれた薄暗い道。
俺以外、誰もいない。
【道に転がっているものです、マスター】
「ん?」
視線を下げて、荒れた道を確認。
見つけたのは一匹の生き物。
俺は、その見つけた生き物に駆け寄った。
「なんだ? んんっ? カラスか犬にでもやられたのかな?」
パッと見た感じ、薄汚れているようにしか見えないが、所々細かい怪我をしており、血を流している。
しかし、見たことのない動物だな。
イタチ系だろうとは思うけど・・・まあ、こんな動物も存在するんだなあぐらいの感想しかない。
「おーい、お前大丈夫か?」
ピクリとも動かないので、恐る恐る触れてみる。
温もりもあるし、小さいけどドクンドクンという心臓の鼓動も掌で感じることが出来た。
一応、生きてはいるようだが、イタチモドキはかなり衰弱している。
「・・・もしかして、念話を送ってきたのってこの子なのか?」
【おそらく】
「そっか」
小型の猫サイズのイタチモドキを持ち上げる。
まずいな。
抱き上げても嫌がるどころか目を開けないぞ。
う~んっ、こういう場合は、動物病院だろうか?
【マスター】
「なんだ、ライ?」
【その生物は『魔導師』のようです】
「えっ?」
【首に私と同系列のデバイスが存在しています】
ライの言葉通り、イタチモドキの首には待機形態のライそっくりな首輪(ペンダントかも?)がかかっていた。
さらに目を凝らしてイタチモドキを見ると、なるほど魔力持ちだと判る。
凄いな。
このサイズで俺より魔力が上だとか恐れ入るよ。
だが、消耗が激しい所為か、実際の魔力量がどんなものかは不明である。
それでもたぶん、俺より上だろうなあ。
「魔導師かどうかは、この際どうでもいい。早く治療してやらんと・・・ん?」
動物病院にでも運んでやろうと歩き始めたら、どこがで聞き覚えのある声がして立ち止まる。
こちらを目指しているのか、声がだんだんハッキリ聞こえて・・・。
「ちょ・・・待ちなさ・・のは」
「なの・・待っ・・」
「こっちな・・・」
あれ?
この声、もしかしてアリサちゃんとすずかちゃんか?
ついでに、なのはちゃんもいるみたいだ。
どうしたもんかな。
おっ、そういえばアリサちゃんとすずかちゃんは犬だか猫だかを沢山飼っていると言っていたな。
それなら動物病院の場所ぐらい知っているに違いない。
よし、あの子達のところへ向おう。
「なのは、待ちなさいってば!」
「どこ行くの、なのはちゃんっ!」
あっという間に仲良し三人組の前に到着。
おや、珍しい。
先頭を走っているの、なのはちゃんだ。
「このはくんっ!」
「やあ、なのはちゃん」
俺が声をかけると、なのはちゃんは立ち止まるなり両膝に手を置いてグロッキー状態。
「こ、声が・・ゼーッゼーッ・・・き、聞こえ、ハーッハーッ・・・・追って・・・ゼーッ」
「ゴメン。なに言ってるか判んない」
「このはっ!」
「このはくんっ!」
アリサちゃんとすずかちゃんが追いついた。
全力疾走したらしいなのはちゃんは一先ず置いて、彼女達に動物病院の場所を訊ねなきゃ。
俺の腕の中でグッタリしているイタチモドキを見せる。
「2人とも丁度良かった、動物病院の場所知らない?」
「ゼーッ・・・ハーッ」
「えっ!? なに? 生きてるの?」
「・・・怪我してる」
なのはちゃん、息整えよう。
言葉が出てないよ。
「早く動物病院に連れて行ってやりたいんだけど・・・」
「わ、判ってるわよっ! ちょっと待ちなさいっ!」
「私も携帯で調べてみるね」
「うん、お願い」
「ゼーッ・・ゼーッ・ヒューッ」
あたふたと携帯を開いて、カチカチと動物病院を調べている二人。
そして、息も絶え絶えの・・・なのはちゃん。
うん、君も無理して携帯出さなくていいよ。
涙目で必死過ぎて、頼んだ俺の方が辛い。
「このは! 見つかったわよっ!!」
「ありがとう。で、場所は?」
何はともあれ、衰弱している子を連れて行くのが先だと俺達は、自然公園の森を抜けてイタチモドキを動物病院へと運ぶのだった。
え?
なのはちゃん?
すぐには移動出来ないようなので、俺が背負って運びました。
まったく無理しちゃって、この子は・・・。
幸いにして動物病院は公園のすぐ近くにあった。
近くの動物病院の名前は槙原動物病院。
俺達は、そこにイタチモドキを連れ込んだ。
診察の結果、衰弱こそ激しいものの怪我自体は大したものではないらしい。
その診察結果を聞いて俺達はホッとした。
これで、もしも『もう手遅れです』なんて言われたら数日は凹んでいただろうな。
何はともあれ、軽い怪我だった事は喜んでいいだろう。
「怪我はそこまで酷くないけど衰弱していたみたいだね。でも大丈夫、しばらく安静にしていればすぐに良くなるよ」
「「「「ありがとうございます!!!」」」」
「いえいえ、どういたしまして」
さて、診察と治療はすでに終わって、これからの事になった。
衰弱していたから連れてきたのはいいが、まったく後の事を俺は考えていなかった。
まあ、イタチモドキは魔導師のようだから、元気になったら森にお帰りでもよさそうな気がするんだけど。
流石に、魔導師の話なんて迂闊に出来る訳がない。
当然、無責任に拾って病院に連れてきただけですなんて言えない。
事実はその通りなのだが。
さてさて、どうしたもんかねぇ。
「先生、このフェレットってどこかのペットなんでしょうか? 首輪みたいなのを付けてるし・・・」
「それ、なにかの宝石みたいだよ。それにしても見たことのない種類だね。本当にフェレットなのかなぁ?」
全員がフェレット(?)に注目していると視線に気付いたのか顔をヒョコッと上げる。
どうやら大丈夫みたいだな。
フェレットは俺達全員の顔を見渡し、俺となのはちゃんをジッと見つめている。
「きゅっ!?」
「「「「ん?」」」」
突然、フェレットが可愛い前脚で自身の首にかかっているデバイスをペタペタ触りだす。
たぶん、俺の首にかかっているライを見て、盗られたと勘違いしたかもな。
しまったな、ライは隠しておくべきだったよ・・・。
「首輪がお気に入りなんじゃない?」
「・・・そっかなぁ」
俺は取り敢えず誤魔化す。
「ねぇ、なのはちゃんとこのはくんを気に入ったのかな、この子? 2人をずっと見てるよ」
すずかちゃんの言葉通り、フェレットはこっちを見ている。
俺に言わせれば、たぶんこの子は魔力を持った俺達2人を警戒しているだけだと思うんだが・・・。
まあ、それはここでは言えないので、俺は苦笑いしか出来ないんだけどね。
俺がどうしたもんかねと考えていると、なのはちゃんは指をそっとフェレットに近付ける。
フェレットはなのはちゃんの指をペロッと一舐めすると、パタリと寝てしまった。
うーん、行動を見るとただの動物にしか見えん。
仲良し三人組は『可愛い』と小声でキャッキャッとはしゃいでいた。
さて、どうしたものか・・・。
取り敢えず、衰弱が激しいので、この病院で一日預かるような形になるらしい。
一日もすれば元気になるらしいが、その際、誰が引き取るか考えて欲しいと言われた。
まあ、普通そうだよね。
最後に治療代について訊ねると。
「そんなこと心配しなくてもいいのよ。君達がしたことはとても尊いことなの。その気持ちを忘れないで。それが私にとって一番の報酬なんだから」
槙原動物病院の先生は優しい声でそう言ってくれた。
しかし、先生の優しさに甘えていては、いけないような気もする。
先生にだって生活があるのだ。
治療費タダでラッキーなんて喜べない。
だがしかし、俺にはあまりお金がないのも事実。
結果、使った薬や包帯の代金だけ支払う事となった。
代金も4人で分けたので、懐のダメージは少ない。
「「「「よろしくお願いします」」」」
先生に頭をしっかりと下げて俺達は動物病院を出た。
「割りカンしてもらって、ゴメンな」
「いいのよ、それくらいの事・・・わ、やば!? 塾の時間だ!」
「大変!」
「にゃっ!?」
仲良し三人組は病院を出るなり、慌てて塾のある方角へと走り出した。
塾通いも大変だな。
彼女達に、ちゃんとお礼を言いたかったのだが・・・。
あっ、俺も道場行くの忘れてたっ。
7話・フェレット・完