モデムの調子があいかわらず悪い。
二週間もつながらないとか泣ける><
第5話・模擬戦
さて、なのはちゃん家の道場へと到着しました。
うーん、緊張します。
これから人様の前で技を披露しなきゃならないからねぇ。
恭子お婆ちゃんやお婆ちゃんとこの師範代や門下生達の前でなら慣れてるからなんて事ないんだけど、ほとんど初対面に近い人達の前で技を見せるのは、初めてと言ってもいい。
うん、やはり緊張してしまう。
特に今回は緊張の度合いが違うと言ってもいい。
なのはちゃんやすずかちゃん、それにデジタルカメラ装備のアリサちゃんだけなら、それ程緊張しないだろう。
問題は、士郎さんと美由希さんだ。
ここに来る間、解った事は2つ。
2人は永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術を習得している事(後1人、恭也さんというなのはちゃんの兄がいるらしいので計3人)。
まあ、美由希さんは、完全に習得してはいないだろうけど。
2人の身のこなし方から、士郎さんは達人クラス、美由希さんは弟子クラス(弟子といっても上位レベル)だと言う事。
流派の名は聞いた事ないけれど、士郎さんの口振りからすると、かなり歴史のある剣術のようだ。
それに引き換え、俺の学んだ薙刀術は酷くいい加減なものである。
恭子お婆ちゃんから学んだ近代武道『なぎなた』に、正式な名称すら忘れさられた剣術である古流・閃衝(せんしょう)をミックスした薙刀術なのだ。
元々お婆ちゃんは剣術家で、薙刀術や弓術は嗜みレベルであり、俺が教わったのは競技用レベルでしかない。
高松家に代々伝わるとされる古流・閃衝を足す事で、無理矢理に競技用武道を実戦武術にしている中途半端なものであり、所謂『なんちゃって薙刀術』である。
その所為で、この2人の前で技を披露するのは、俺自身の未熟さゆえの恥ずかしさもあり、緊張するのだ。
いい加減な武芸で、士郎さんを落胆させるかもしれないと、つい考えてしまうのよ。
でも俺は、思いっきり薙刀振りたい。
振りたいのだ。
でなきゃ、美由希さんの誘いに乗ったりしないよ。
「じゃあ、始めよっか?」
「へ?」
道場に入ってすぐ、美由希さんは2本の短い木刀を準備するなり、そう言った。
え?
防具なしで、いきなり撃剣ですか?
こっちは演技競技で使われる八本ある演技の型をいくつか披露するつもりだったんだけど・・・。
「早く早くっ。薙刀と打ち合うなんて始めてだから、道場に来る前からずっとワクワクしてたんだよね♪」
「・・・」
俺の実力を見たいのは理解出来るけど、美由希さんの言動、危なくないか?
防具なしで打ち合うとか、危険極まりないぞ。
刃の無い木刀だから平気じゃない等、俺は思っていないし、考えてもいない。
木刀は鈍器です。
打ち所悪いと死にますよ。
ついでに眼鏡を外して下さい。
美由希さんの言動に、どうしたもんかと、俺は士郎さんの方を見る。
「大丈夫だよ、このはくん。美由希はちゃんと寸止め出来るから」
「そうそう。遠慮せずに打ち込んできてね♪」
「・・・はぁ」
この子にしてこの親ありだわ。
士郎さんもワクワクのウズウズといった様子である。
うひぃっ、この人達絶対戦闘狂だ。
目がそう語ってる。
よし、ここは、仲良し三人組に助けを・・・。
「にゃはは・・・ゴメンね、このはくん」
「なにやってんのっ。さっさと準備しなさいよねっ」
「えっと・・・頑張ってね、このはくん」
オーマイガーッ。
四面楚歌だ。
仕方ない、こうなったら覚悟を決めるしかない・・・・はぁ。
ため息1つ吐いてから、薙刀(木刀タイプ)を袋から出して準備する俺。
腹を括るぞ。
俺は美由希さんの立つ道場中央へ向う。
士郎さんは審判役としてか、俺達から少し離れた位置。
なのはちゃん達仲良し三人組は、道場の端。
うち、アリサちゃんは、デジカメ片手に両方を応援すると言うなんとも無責任なものである。
すずかちゃんは苦笑しつつ見てるだけ。
なのはちゃんは救急箱を抱えて、やはり苦笑してなさる。
・・・どうしてこうなった?
事、今においては考えるだけ無駄だな。
賽は投げられたのだから・・・。
まあ、やるだけの事をしますかね。
御神流の試合作法は解らないので、取り敢えず『なぎなた』の試合競技で用いられる礼を取る。
美由希さんも礼。
そして、互いに構える。
美由希さんの構えは堂に入ったものだ。
右半身を若干後ろへ下げ、左手の木刀は軽く前に、右手の木刀は左手より少し下がる形に前。
素人目だと、和太鼓を打つような構えに見えるだろう。
俺に解る事は1つ。
美由希さんは、強いって事だ。
それに対して俺の構えは、『なぎなた』の構えを使わずに薙刀版閃衝の構え。
左半身を美由希さんより下げて半身を隠すようにし、薙刀は床と水平に構える。
『なぎなた』の基本である八方振りは最初は使わない事にした。
理由は簡単。
よほどの実力差がない限り、武道が武術に勝てる訳がないからだ。
武術を女子供でも扱えるようにしたのが武道だと、俺はお婆ちゃんから聞いた。
だから、俺は古流・閃衝をメインに構える事にしたのだ。
そう意識して掛からないと、下手にスポーツ感覚で打ち合いでもしたら確実に怪我しちゃうよ。
「待った」
俺の覚悟と意気込みが伝わったのか、士郎さんからいきなりの待ったがかかる。
ほっ、ようやく止めに入ってくれたよ。
防具なしで打ち合うのは危険だと気付いてくれ・・・・。
「美由希。眼鏡を外しなさい」
「は~いっ。ちょっと待ってね」
「・・・・」
いそいそと眼鏡を外して、なのはちゃんに預ける美由希さん。
そして、戻るなりすぐに構える。
ダメだこの親子。
こりゃ、かなり本気でかからないと大怪我するわ。
「美由希とこのはくんもいいかな?」
「こっちは何時でもいいよ、お父さんっ♪」
「ふう。・・・どうぞ」
呼吸を整え相対する。
「始め」
試合開始だ。
先手必勝。
「やあああああああああっ!!!」
「っ!?」
開始と同時に俺は、美由希さんを自身の間合いに入れるため、一気に踏み込む。
そして、踏み込みながら閃衝の技が1つ『華衝』を放った。
ヒュンッ!
ヒュッ!
ヒュバババッ!
ババババババババババババババババババババババババ・・・・・ッ!!!!!!
「ちょっ!? なに、これぇっ!!!」
「やあああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
ガガガガガガガッ!!
ガガガガガガガガガガガガガガッ!!!
ガガガガガガッ!!
ガガガガガガガッ!!!!!
美由希さんの持つ2本の木刀だけに狙いを定めての突きによる高速連撃。
それが、俺の放った技、華衝だ。
ようは連続突き。
但し、俺の華衝は1秒間に8回の突きが襲い掛かるんだけどね。
ちなみに、師匠の恭子お婆ちゃんは、刀で1秒間に40回突いてきます。
ヒュバババババババッ!
ガガガガガガガガガガッ!!
「くっ! 凄いっ! 凄いよっ! このはくんっ!!」
「うそおおおぉんっ!!」
なに、このお姉さん。
俺の華衝を、笑いながら捌いちゃってるよっ!
普通の試合なら、この華衝だけで勝てるのにぃぃっ!!!
やはり、武術を嗜んでいる人には、この程度の連撃は子供騙しだったという事かっ!
(作者注:戦闘民族高町家の武術レベルが常人超えしているだけです)
「ほっ! ほいっ! 速いけど、お父さんや恭ちゃん程じゃないねっ♪」
「ほお、意外にやるもんだね」
「な、なによアレ? 2人とも人間?」
「このはくん、凄い早いね」
「・・・お姉ちゃん凄い」
くっ、初見殺しを狙ったのに一本取れないとは・・・。
流石本物の剣術。
ならば、受け流せないくらいまでに速度を上げるっ!
「よっ! はっ! やるね。でも、もう見切っちゃ・・・きゃああっ!!!」
「はああああああああああああああああっ!!!」
ドガガガガガッ!!
ギャギャギャギャリリリリィィッ・・・・!!
焦げ臭い匂いが漂い始める。
同時に、俺と美由希さんが手にした武具からいくつもの細い煙が舞う。
激しい連撃による摩擦に木刀が焦げ付き出した。
「はああああっ!! 推して参るっ!!」
「ちょっ!」
ガガガガガガガガガッ!!
さらに突きの勢いを上げ・・・。
ヒュッ!
・・・る振りして、中段からの斜め振りに切り替え、美由希さんの脛に寸止め。
「はい、一本っ」
「・・・え?」
「一本っ!! このはくんっ!!」
士郎さんによる俺の勝利宣言が上がった。
「はははっ、一本取られたな、美由希」
「え? え? ずるい、ずるいよ、このはくんっ!」
「ずるくないです。連続突きに気を取られる方が悪いんです」
「え~~っ!? でも、でもぉ」
「それよりも、まだ試合後の礼が終わってませんよ、美由希さん♪」
「このはくんの言う通りだぞ、美由希」
「は~~~いっ」
互いに礼。
ほっ、お互い怪我しなくて良かったよ。
例え練習といえど防具はつけないと危ないです。
でもまあ、良い汗かいたなあ。
あ、そうだ。
アリサちゃん、ちゃんと俺の格好良い所撮影してくれたかな?
「「「・・・・・」」」
仲良し三人組の方に視線を向けると、3人共ポカ~~ンッとした表情をしていた。
しかも、アリサちゃんのデジカメは斜め下を向いていなさる。
あれ?
なんで?
師範代クラスに届きそうな実力の美由希さんから一本取ったのに・・・。
あれれ?
首を傾げる俺。
「このはくんっ! もう一回っ、もう一回しよっ!」
「え~~っ?」
俺の実力見るだけなんだから、さっきのだけでもう充分じゃない?
そうですよね、士郎さ・・ん?
士郎さん、なんでいそいそと木刀の準備しているのかな?
「ダメだぞ、美由希。次は僕の番だからね♪」
「えっ?」
カンッ!
カカカカカンッ!
「うそおぉんっ!! 片手だけで受け流されてるぅぅっ!!」
「ははは、そらそらっ! このはくん、君ならまだまだ速度を上げられるだろっ?」
「えぇぇっ!!?」
ヒュッ!
ギャギャギャギャッ!
ドガガガッ!!
「父さんガンバレーーッ」
「「「・・・・・・」」」
だ、誰かこの人止めて・・・。
「にゃはは・・・私達の出番・・」
「最後まで言わなくても解るよ、なのはちゃん」
「蚊帳の外ね」
・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
ORZ。
「いやあ、久しぶりに良い汗かいたなぁ。なぁ、美由希?」
「そうだね、父さん♪」
清々しい表情の士郎さんと美由希さん。
ゼーゼーゼーッ。
「・・・・・・」
大の字で床に転がる俺。
喋れないぐらいにバテております。
「だ、大丈夫っ、このはくんっ!?」
「・・・なのはちゃん家って凄いね」
「凄いって言うより、呆れるわ。でも、良い絵撮れたわよ」
「「・・・アリサちゃん」」
結局、俺は士郎さんと美由希さんを交互に相手しながら2時間以上も激しい打ち合い稽古をしていたとか。
なのはちゃんとすずかちゃんに介抱されてる時には、外はもう夕暮れ時。
つ、疲れた。
だけど、充足感はある。
『魔法』なしでの全力全開の打ち合い稽古は久しぶりだったからなあ・・・。
俺の体力が回復した頃には、士郎さんの姿はなかった。
美由希さん曰く、何時までたっても店に戻らない士郎さんに桃子さんがキレたらしく、さっき連れ戻されたとの事。
俺宛ての伝言として『道場で練習してもいいよ』と言っていたそうな。
やったね。
これで、練習場所に困らないぞ。
「バンザーイッ」
思わぬ幸運に万歳する俺。
ありがとう、なのはちゃん。
そして、士郎さんのお仕事邪魔してゴメンナサイ。
さらに遅くまで付き合ってくれた仲良し三人組にも感謝と謝罪を・・・。
「・・・・このはくん、あれだけヘトヘトになっても喜んでるの」
「なのはちゃんと逆で運動するの好きみたいだね、このはくん」
「結構面白かったからいいじゃないっ。でも・・・・」
「「うん」」
「「「今日って、このは(くん)の歓迎会だった筈だよね(なの)」」」
・・・うん、君らに礼など無用だわ。
なんで微妙な表情で、こっち見るかなあ。
まあ、帰る頃には微妙な雰囲気はなくなりましたけどね。
それと、連絡用として、仲良し三人組の面々となのはちゃん家の電話番号を教えていただきました。
携帯電話持ってきて良かった。
まだ新しい住所の電話番号覚えてなかったから、携帯見せただけなんだけどね。
まさか、なのはちゃん達から番号とメールアドレスまでいただくとは。
これって、友達の証かなあ。
うん、今日という日の良い記念と思えばいいか。
これにて転校初日の出会いは御終い。
帰宅してから俺は、今日の出来事をお父さんとお母さんに話した。
2人共、凄い微妙な顔してたのが印象的だったな。
その理由は簡単、自分達に似た住人がご近所に住んでいるからねぇ・・・。
この日の夜、美由希さんから電話がかかった。
「このはくんが忘れてった写真を恭ちゃんに見せたら。・・・恭ちゃん、見た事ないくらい物凄い微妙~な顔してた♪」
「はぁ」
そりゃ、自分そっくりなお婆ちゃんの写真を見せ付けられたら誰だって微妙な表情になろうってなもんだ。
俺だってなのはちゃんを見て、微妙な気分だったからねぇ。
その後、美由希さんからの電話内容は、道場を使う時間とか朝の練習に参加しないか、と言ったものだった。
なんというか、ありがたい。
美由希さんのご好意に、頭が下がる思いですな。
「それじゃあ、明日の朝練から参加しますね」
「うんうん、恭ちゃんと待ってるからね~♪」
いやあ、なのはちゃん家の人達って良い人ばっかだなあ。
海鳴市への引越しに不安があったけど、今日の出会いで大分安心したな・・・ん?
あっ、翠屋のシュークリーム、結局買ってないや。
5話・模擬戦・完