ペースとしては一週間おきでしょうか。
あ、そうそう。
今更ですが、無印1~3話見ました。
遅っ。
そして、くぎゅうボイスが好きな私は、やたらアリサに喋らせる始末である。
第4話・翠屋に行くの
初対面の人様を『パチモン』と呼ぶ失礼なバカを気絶させて後、俺そっくりななのはちゃんと帰りのバスでお喋り中。
お喋りといっても大した事は話してないよ。
通学バスはどの時間帯が乗りやすくて良いとか、なのはちゃん家の翠屋での人気メニューとか、家に池と道場があるとかだね。
後は、アリサちゃんとすずかちゃんと同じ塾に通う事になった話かな。
なんて言うか普通です。
ん?
家に道場があるのは普通じゃないな・・・。
まあ、彼女のご両親が喫茶店と道場を夫婦で別れて経営してるんだろうな、きっと。
探せばそういう家庭環境もあるだろうよ、うん。
しかし、高い『魔力』を持ってるようでも所詮小学3年生。
交わす言葉は、子供のそれだね。
ほっ。
過度に緊張して損したって感じだよ。
『魔力』があるから『魔導師』という訳じゃあないみたいだ・・・。
俺の方から出来る会話は、『魔法』以外の事。
前の学校で流行っていた遊びや、恭子お婆ちゃんに習っていた薙刀の事とか、かな。
後で思い返すと、授業や勉強の事は、あまり話題に出なかった。
当然、神條の話題も出ない。
あのバカに関しては、俺もなのはちゃんも口には出さなかったよ、うん。
色々と話しながらバスを一緒に降りる。
そして、通学路付近の道案内を始めるなのはちゃん。
「・・・で、あそこがよくお買い物するコンビニで・・・あれ?」
「ん?」
うんうんと、頷きながら聞いていると、なのはちゃんが急に立ち止まる。
「このままだと、なのはのお家まで行っちゃうの。このはくんのお家ってこの辺なの?」
「ん? あぁ、俺ん家、あそこに建ってるマンション」
そう言って俺は、目に映る多くの建物の中から1つ、背の高いマンションを指差した。
「えへへ、じゃあご近所さんなの。あのマンションの近くになのはのお家はあるの」
「へー」
「うん」
「・・・・ん? まさか同じマンションとか隣の家とか・・・言わない?」
背格好や名前だけでなく、住んでいる家まで似通ってたら流石に引くわ。
「ううん、違うの。なのはのお家は、あのマンションからあー行って、4つ角をこう曲がって、真っ直ぐ行った先にあるの」
違って良かった。
しかし、なのはちゃんの身振り手振りで道案内をしてくれる姿は可愛いな。
両サイドで止めた髪がピョコピョコ動いて、なんとも可愛らしい。
説明の仕方等を見ていると微笑ましい感じだ。
うん。
彼女は悪い子じゃないね。
ただ、俺と容姿がちょっとだけ(?)似てるだけの良い子だよ、うん。
先程まで、戦々恐々としていた自分が恥ずかしいよ。
「ふむ・・・あぁ、なるほど。池と離れがある立派な家屋がなのはちゃんのお家だったのか」
「うん」
「道案内、ありがとね、なのはちゃん」
「にゃははっ」
「まぁ、なのはちゃんのお家は判ったよ。・・・で、翠屋さんはどこにあるのかな? ついでに俺は何時頃行けばいいのかな?」
「にゃはっ、そうだったの。今、地図書くの。待ってなの」
「うん」
後ろ頭を恥ずかしそうに掻きながら、かばんから筆記用具を出すなのはちゃん。
「・・・で、翠屋は駅前商店街の真ん中にある人気のお店なの」
「ふむふむ」
簡単な地図を書いてもらう。
随分と立地条件の良いお店のようだな。
場所も判り易い。
これなら迷う事はないだろう。
「判った。それと、何時頃行けばいい?」
「う~んっと、お昼時の忙しい時間は迷惑かけちゃうから・・・2時過ぎ?」
2時か。
あぁ、喫茶店って言っていたからランチタイムぐらいはあるんだろう。
確かに、1時頃だと向こうの親御さんも忙しいに違いない。
なるほど、それが終わったあたりに行くのが失礼にあたらないタイミングだろうな。
良く出来た子だなあ、なのはちゃんは。
「OK。じゃあ、楽しみにしてるね」
「うん、また後でなの」
取り敢えずそこで話はお開きになった。
お昼を家で食べてからのんびり行くとしますかね。
おっと・・・そう言えばシュークリームがお勧めってバスの中で言っていたな。
よし、お小遣いもまだ残してあるから、帰りにお父さんとお母さんのお土産に購入するのもアリだね。
お父さん、甘いもの好きだからきっと喜ぶぞ。
さてさて、遊びに行くのはいいとして、はてはて、俺の方から何か持っていった方がいいのかな?
流石に菓子折り持って喫茶店には行けんよなあ。
うーん。
あっ、考えてみたら、今日まともに知り合えたのは女の子ばっかりじゃないかっ!
どうしよう?
俺、女の子が喜びそうな面白い話題がほとんど出来ないぞ。
薙刀振り回している以外は、勉強と筋トレぐらいしか話す事が無いっ!!
・・・・。
まあ、お喋りするぐらいだろうから、話題になりそうなネタを持っていけばいいか。
あはは、俺、女の子相手だからって緊張し過ぎだな。
何悩んでいるんだか。
午後。
食事を済ませ、道着に着替えた俺は、数枚の写真と練習用の薙刀を持って、予定通り翠屋に向かった。
勿論、自分のお茶代とお土産購入用に、お小遣いも多目に、持ってだ。
写真は話題作り用だね。
なのはちゃんから聞いた道順通りに歩く。
道着姿の所為か、視線を多少感じるが、俺は気にしない。
この格好の方が落ち着くからね。
翠屋に到着。
時刻はちょうど2時。
なのはちゃんの言葉通りお店は繁盛しているようだ。
外からでも、お客さん達の姿がちらほら見える。
時間のわりに女性客が多いところを見ると、これは期待していいレベルだ。
女の人だらけの場所に入る事に少し恥ずかしい気もするが、ここで立ち止まっていても仕方ない。
勇気持って入ろう。
「いらっしゃいませぇ・・・え?」
店に入ると女子高校生ぐらいの年齢のウェイトレスさんから声をかけられる。
さてさて、アリサちゃん達はもう来てるかな?
ん?
やはり、道着姿では不審がられたか・・・。
「なっ、なのはっ!!」
「へ?」
いきなりウェイトレスさんが俺に突進してきた。
そして、ガシッと両肩を捕まれ揺さぶられる。
「ど、どうしたの、その髪っ!!?」
「ぐぇ」
ブンブンと頭を揺らされ続ける俺。
あうぅ、目が回りそうで、訂正の言葉を吐き辛い。
この人もかっ!
このメガネのお姉さんも俺をなのはちゃんと見間違えてなさる。
「あうあう、く、首が・・・」
誰かこのお姉さん止めて。
あうあう、ヘルプ。
あっ、誰かこっちにやって来る。
「こらこら、店先で大声出して何をやってるんだい、美由希?」
「あ、お父さんっ。大変っ、なのはの髪がっ!」
男の人の影。
どうやら助けが来たようだ。
「何を言ってるんだい、美由希? なのはなら、あそこで・・・えっ?」
「「お父さんっ」」
「「「えっ?」」」
助けに来た男の人を見てビックリ。
お父さんと見間違える程そっくりな人だったからだ。
思わず『お父さん』と言ってしまった。
メガネのお姉さんに俺、そしてお父さんのそっくりさんで何度も顔を見合わせて『え?え?え?』と驚く。
なんとも混沌とした状況になってしまった。
「入り口で固まって何してるの?」
「「お母さん」」
「「「「えっ?」」」」
その後、お母さんそっくりな人がやって来て、なのはちゃんが説明してくれるまで俺達は驚きまくっていた。
俺も説明しようと、家族で撮影した写真を見せたりもしたが・・・。
しかし、両親の容姿や名前まで似ているとは驚きである。
お父さんのそっくりさんは、お母さんのそっくりさんに首根っこを掴まれ、店の奥に引き摺られていった。
『浮気』や『誤解だ』と言う言葉が聞こえ、さらに男の人の悲鳴が聞こえた。
ごめん、なのはちゃん。
なのはちゃんのご両親に気まずくなるモノ見せて・・・。
まあ、すぐに誤解は解けたのだが、顔に青タンと引っかき傷を付ける羽目になったなのはちゃんのお父さんには悪い事をしたと思う。
ついでに、どこの家でもお母さんはお父さんより怖・・・いや、強いんだと認識した。
後、本当にっ、どうでもいい事だが、既に席に着いていたアリサちゃんが、助けにも来ないでこちらを指差して笑っていたのが、とても印象的だったな。
「ははは・・・本当にうちのなのはにそっくりだね、このはくんは」
「ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」
俺が頼んだコーヒーを置き、なのはちゃんのお父さん(士郎さん)は引きつった笑顔でフラフラしていた。
お腹を手で押さえているあたり、なのはちゃんの母さん(桃子さん)からキツイレバーブローでも喰らったんだろう。
その様子のあまり、申し訳ない気持ちがいっぱい湧き、俺はしっかりと頭を下げた。
「あんたが紛らわし過ぎるからいけないよ」
「アリサちゃん、言い過ぎ」
「お父さん、大丈夫?」
「ははは・・・大丈夫だよ、なのは」
「本当にっ、すいません。すいませんでした」
話題作り用に持ってきた写真を見ながら、俺を責めるアリサちゃん。
それをたしなめるすずかちゃん。
お父さんを心配するなのはちゃん。
痛々しい顔の士郎さん。
謝り続ける俺。
ちっともリラックス出来ません。
誰か助けてくれ。
助けを求めて、近くに立っていたメガネのお姉さん(なのはちゃんの姉・美由希さん)をチラリと見る。
「恭ちゃんが、恭ちゃんが・・・お、おおお、お婆ちゃんににに・・・」
恭子お婆ちゃんの写真を見て、なんかショックを受けて固まっていた。
ダメだ、こりゃ。
結局、全員が落ち着いて会話出来るようになった時には、出されたコーヒーは生温くなっていた。
美味しかったけどね、少々残念な気分である。
後でもう一杯煎れてもらうか・・・。
「はぁ~、旨い」
やはり喫茶店で飲むホットコーヒーは旨いな。
和む。
「ほぉ、このはくんはブラックのままで飲むのかい?」
「はい」
「うちのなのはは、苦いからヤダって紅茶派なんだよ」
「そうなんですか?」
「うん。まあ、まだなのはには早いんだろうけどね」
士郎さんとカウンターでのんびり話す俺。
なのはちゃん達は、俺の持ってきた写真を見ながら、ワイワイ女の子同士で楽しくお喋りしてます。
はい、ハブられました。
俺の歓迎会だった気がしたのだが、気にしちゃ負けなんだろうな、きっと・・・。
「あ、そうそう」
「はい」
「ずっと気になってたんだが、このはくんはこの後薙刀道場へ通う予定なのかな?」
「いいえ。練習出来そうな適当な場所までジョギングでもしようかと」
「おや?」
「どうかしましたか?」
「いや、薙刀を習っているって聞いたから、道場通いだと思ってたんだが・・・」
「引越したばかりで、こちらで薙刀を教えている道場を探している最中です」
「そっか」
どこか良い道場知りませんかと、訊ねてみる。
うーんと、腕を組んで考え込む士郎さん。
最悪、薙刀を振る事を許してくれる道場ならどこでもいいと伝える俺。
「なになに、男同士で何話してるの?」
「あ、美由希さん」
手が空いたのか、美由希さんがこちらにやって来る。
「なあ、美由希」
「なあにお父さん?」
「この辺に薙刀を教えてくれる道場はあったかな?」
「うーん、確かぁ・・・なかったわ」
「あう」
ショックだ。
海鳴市には薙刀道場はないのか・・・凹む。
フッ、コーヒーが突然苦くなったよ。
「最悪、薙刀を振っても文句を言われない場所、知りませんか?」
「「うーん」」
期待薄そうだな、こりゃ。
しかし、これからの練習どうしよう。
腕が鈍っちゃうな、このままだと。
「そうだっ! お父さん」
「ん? どうした美由希。教えてくれる道場でも思い出したかい?」
「ううん、違うの。練習だけならうちでしたらいいんじゃないかって思ったの」
あぁ、そう言えば、家の敷地内に道場があるって言ってたな。
嬉しい誘いなんだけど、でもなあ。
「あのぅ」
「なぁに、このはくん」
「高町さんのところは剣術をやられてるんですよね? 俺、長物振るから、他のお弟子さん達のお邪魔になりませんか?」
そうなのだ。
木刀や竹刀を振るっているお弟子さん達の中に、薙刀なんて長い物を振ったら、明らかに稽古の邪魔になる。
目障りだと思われて喧嘩にでもなったら、それが原因でクラスメイトのなのはちゃん達と溝が出来る可能性だってあるのだ。
迂闊にホイホイOKなんて出来ない。
「大丈夫よ」
「でも」
「うちの道場使ってるの、お父さんと恭ちゃん、それとわたしだけだもん」
「おいおい、美由希。うちの流派は・・・」
「いいじゃない。このはくん礼儀正しいし、剣術と薙刀術は別物だし、練習だけなら問題ないでしょ」
「うーん、でもなぁ・・・」
腕を組んで考え込む士郎さん。
当然の反応だよなあ。
士郎さんの口から『流派』と出た以上、歴史ある武術だろうし、例え練習風景と言えど軽々しく人に見せたくないだろう。
その気持ちは、お婆ちゃんの弟子レベルの俺でも理解出来る。
仕方ない、練習出来そうな広場でも探すしかないな・・・。
「じゃあ、こうしたら?」
「ん?」
「このはくんの実力を見てからってのは、どう?」
おおっ、美由希さんが天使に見える。
ナイスアイデアです。
「ふむ。まあそれでもいいか」
「えっ、いいんですか?」
「いいよ」
おやや、随分とあっさりしてら。
まあ、所詮俺は子供だし、士郎さんからすれば、実力を見るだけ見て『残念だけど無理』って答えるだけでこの場は収まるもんな。
でも、引っ越してからまともに薙刀振ってないから、久しぶりに全力で振りたい気持ちが俺にはある。
美由希さんの言葉に乗ろう、うん。
「じゃあ、一度、俺の薙刀を見ていただけますか?」
「いいとも」
「あはは、よかったね、このはくん」
俺は2人に頭を下げた。
「面白そうな話してるじゃない」
「なんだ、アリサちゃんか」
美由希さん達の会話に興味を持ったのか、アリサちゃんがこちらに来た。
「写真だけじゃよく解らないから、あたしが直接このはのなぎなたを見てあげる」
「うは、そりゃ光栄なこって」
なんでこの子、上から目線なんだろうか?
俺、なんかしたか?
しかも、アリサちゃん、手にデジカメ持ってるし・・・。
「ははは、期待されてるな、このはくんは」
そう言って、ポンっと俺の頭を撫でる士郎さん。
うはあ、出来レースをするとはいえ、緊張するじゃないですか。
いや、プレッシャーをかけてきてるんだ、きっと。
『うちは剣術道場だ。お前に薙刀を振る場所はねえ』と伝えてるに違いない。
「それじゃあ、決まりねっ。うちの道場行こっか」
「僕もこの顔だし、おーいっ、桃子! ちょっと抜けるけどいいかい?」
楽しそうですね、美由希さんに士郎さん。
ついでに、アリサちゃんも。
はぁ。
明らかに俺、翠屋の営業妨害してるよね。
「にゃははっ、このはくんガンバッ」
うわぁ、なのはちゃん苦笑してら。
ゴメンよお。
お店の邪魔しちゃって。
と、言う事で、俺の歓迎会は一時中止となり、士郎さんと美由希さん、それに仲良し三人組の面々でなのはちゃん家の道場へと向う事となりました。
あっ、お土産用のシュークリーム買いそびれたっ。
4話・翠屋に行くの・完