小説『ゼロの使い魔』の世界に転生したザザの物語も第9話です。
無理難題を押し付けられたザザは無事解決する事が出来るんでしょうか?
しかし、全然っTS要素薄いなw
ZEROの使い魔の世界に転生しました
第9話 まずは会議でしょう
「アンリエッタ様からの勅命である。ザザ・シュヴァリエ・ド・ガスコーニュ。トゥルズ領『腐毒の森』焼却を命ずる」
『シュヴァリエ』授与式から2週間と経たないうちに、無茶な命令発令。
勅使の言葉に、一部を除いて騒然です。
『腐毒の森』焼却命令の指示がこれまた酷い。
1:期日は降臨祭初日(地球で言う元旦初日)まで。
2:森に潜む亜人達の討伐も行う。
3:任務に対し、王宮は資料閲覧以外の援助はしない。
4:任務の必要経費等は、焼却確認後に恩賞と一緒に支払われる。
5:任務遂行が不可能な場合は、勅命に背いた賠償として50万エキューを国に支払う事。
どこの無理ゲー?
嫌がらせもここに極まれりです。
命令の配布はアンリエッタ様ですが、内容の悪辣さから姫様本人が発令したものでない事は簡単に想像できます。
おそらく、横槍を入れてきたリッシュモン派の仕業ですね。
授与式でのボクの態度にえらくご立腹したみたい。
命令書を読み上げた勅使も、リッシュモン派らしく厭な奴です。
『貧乏貴族の小倅がリッシュモン様に口答え等百年早いわ。だが、リッシュモン様は寛大だ。出来ませんと泣き付いて金を出せば、あの時の無礼は許してやる。でも、お前んとこ大金ないだろ? 困れ困れ。さあ困れ』
と、ボクを見る目がそう語ってます。
随分明白な態度なのでモロ判り。
だけど、こちらは内心超むかついていたけど、食事と寝床についてはしっかりと歓待しましたよ。
お持て成ししたにも関わらず、勅使は散々っぱらボクに対する嫌味を言いまくってましたね。
しかも、父上に露骨な賄賂請求までする始末。
『口を利いてやってもよい』とか言うのですよ。
下っ端の癖につけあがるなです。
当然、これは断りましたよ。
与えたところで現状が変わるものでし、与えた事を問題として後からイチャモンつける事間違いなし。
舐めるのも大概にしてほしい。
後で覚えてろです。
さて、勅使が帰った後、早速緊急会議です。
家臣団本部会議室で相談開始。
ボクと父上、レイモンさん&ボリスさん、ガスコーニュ家支援・通商ギルド代表のオットテールさんの5人で会議です。
まずは、オットテールさんの一言。
「50万エキューもの大金、ガスコーニュ領ではすぐに集められません。それにガスコーニュ領には、未だ多くの負債があります。上級貴族の方々にコネがあれば別ですが、新たな借金の申し込みは難しいと存じます」
はい、受ける以外ない発言です。
次に口を開いたのはレイモンさん。
「受けると前提しても、今回は難問だ。森1つ燃やすだけなら簡単だが、問題は森が広い上、さらに亜人達の住処だと言う事だな。メイジだけでなく、平民から人手を集めて出す必要がある。トゥルズ領も我らの領と離れているし、兵の移動や兵糧の輸送と、かなり金がかかる。問題は山積みだ」
ボリスさんの意見も同様のようです。
「ガスコーニュ領の治安がようやく安定し始めている時に、これは痛いですね。徴兵と傭兵で数はすぐ集まるでしょうが。問題はメイジの戦力不足ですね。トライアングルクラス以上の火メイジを最低4人雇う必要が出るでしょう。それに、任務成功後のみ軍資金が支払われるというのも問題ですね。人を雇うにも予算がかかりますからねぇ」
父上の方は顔が青ざめたまま無言。
まあ、普通の反応でしょう。
「姫様からの勅命が発せられた以上、受ける以外選択肢はありません。しかも、成功させなければいけません」
「それは理解している。・・・が、問題を解決した後も、なんらかの嫌がらせが続くと思うぞ。まさか高等法院長に目をつけられるとはな・・・いやはや、なんとも」
「受けるのならば、どれだけの手勢を用意します?」
「100は欲しいな。だが、揃えても烏合の衆でしかないか。むむぅ」
「やはりメイジ不足が痛いですね」
レイモンさん達はあーでもないこーでもないと意見を出します。
オットテールさんは2人の意見に対し、軍事費が幾ら必要か等をすぐに計算しました。
ボクは始めから受ける以外選択肢がないので、『腐毒の森』についてオットテールさんが集めてくれた資料に目を通しているだけで、まだ一言も発言していません。
まあ、レイモンさん達を信用しているので、兵の運用の事は任せていいでしょう。
「ふむ・・・オットテールさん?」
「なんです、ザザ様」
資料の中に気になる点をボクは発見しました。
オットテールさんに聞く事にします。
「『腐毒の森』周辺で幻獣が多数目撃されてるとありますが、種類とか解りますか?」
「おや、資料に載ってませんでしたか?」
「種別までは書いてませんね」
「すいません。急拵えだったので、記載漏れですね。でも、それなら解りま―――」
「待て、オットテール! 亜人の集団だけでなく、幻獣までいるのかっ!!?」
「さらに難問じゃないですかっ!!?」
幻獣の存在に、レイモンさんとボリスさんが驚きの声を上げました。
やってられるかとばかりにレイモンさんは机を叩きます。
確かに元傭兵のレイモンさんは領内一強いですが、所詮は風のトライアングルメイジ。
応用の効く風系統メイジですが、集団や広範囲を攻撃するのは苦手。
レイモンさんの得意な戦闘は、至近~中距離の一騎打ち。
オーク鬼の10や20は平気でも、それを超えると流石に躊躇するようです。
広範囲攻撃を得意とするのは、主に火系統のメイジですからね。
風系統ゆえに空を飛ぶ敵との相性は良いですが、陸と空の敵を両方相手取るのは苦戦を強いられるでしょう。
当然、飛行能力を持った幻獣の出現報告に頭を抱えてますね。
「まあ、2人とも落ち着いて。で、オットテールさん、種類とかはどうなんです?」
「え~と、そうですね。確かマンティコアだったと記憶してます」
「マンティコア?」
「ええ、マンティコアです」
「マンティコアだけですか? 他の幻獣は?」
「他? 他は、えっと―――」
ボクの質問にオットテールさんは、腕を組んで考え込みました。
集めた情報を思い出そうとしているようです。
「う~ん・・・・・おや?」
「どうしました?」
「あ、いや。今、思い出したんですが、マンティコアしか目撃されてないんですよ。あの森の周辺―――」
「それがどうした、ザザ――」
「まあまあ、落ち着いて、レイモンさん。続きを、オットテールさん」
「はい。どういう訳かあの森の周辺、幻獣はマンティコアしか見かけないそうです。群れのナワバリでもあるんですかねぇ?」
出現するらしき幻獣はマンティコアだけか・・・。
マンティコアと言えば、地球の伝承だと人面の人食いライオンといった姿が一般的ですね。
まあ、地球じゃ実在しない空想や伝承の生物なのですが。
ハルケギニアでは、ライオンに鷲の翼、蛇の尾を生やした幻獣として有名です。
空も飛べ、また賢いので、騎獣として飼われる事も。
トリステイン王国に存在する三つの魔法衛士隊の一つ、マンティコア隊の専用獣にされてるくらいです。
まあ、マンティコア隊ですから、マンティコアを使ってるんでしょうね。
飛行速度や移動距離はヒポグリフやグリフォンに劣りますが、地上戦闘力及び短距離の地上走行速度は群を抜いてます。
強襲や殲滅戦に最適な騎獣ですね。
しかも、年月を経た個体は人語を解する程の知能を得るようで、人との対話も可能だとか。
敵に回ると厄介このうえないですね。
しかも、群れ。
レイモンさんとボリスさんはさらに頭を抱えました。
「正規軍の仕事だろ、これ?」
「よく、今まで直轄領を放置してましたね。王宮の連中は何考えてるんでしょう?」
オットテールさんは、淡々と続けます。
「一応、今までの情報は、私が交易商人達から聞いた話です。私もトゥルズ領の噂を知ってますけど、マンティコアが住んでいるのは初耳みたいなものですよ。なにせ、詳しく調査しようにも王家の直轄地ですし、しかもトゥルズ領に人が入る事が禁止されてるんです」
「人が入れない?」
「ええ、入領禁止です。まあ、これは想像なんですが―――猛毒の温床みたいな森を態々開拓する必要がなかった。亜人の件にしても、周辺の所領からあの森に追い立てられたようです。もしかすると、そこに元から住む幻獣に押し付けたかもしれませんね」
「はあ・・・」
マンティコアは元から住みついていて、亜人達は後から集結したか・・・。
なんとなくですが、オットテールさんの語ってくれた事にボクは希望のようなものを抱きました。
精々ボクの出すアイデアなんて、レイモンさんとあまり変わらないのです。
『森の外輪部の木々を内側に切り倒して、森から亜人達が出られないよう閉じ込め、外輪部と上空から油を撒いて焼く』
と、その程度ですよ。
しかし、空を飛ぶマンティコアが森に生息と言われると、この策はかなり危険が伴います。
亜人達だけでなく、マンティコアの群れまで炎で追い立てる事になるのですから・・・。
迂闊に、魔法の使えない平民の兵士を投入できないのです。
傭兵を雇う?
そんな金どこに?
雇った所で、幻獣が群れで出てきたら半数以上は逃亡しますよ、きっと。
一頭だけでも、そこそこの強さを持ってますからねぇ。
それに、賢いし・・・・。
賢い?
年月を経た個体は人との対話も可能・・・。
「そうだっ!!」
「「「「「っ!!?」」」」」
「どうしたんですか、急に大声なんて出して?」
「そうだぞ、こっちは兵士の運営をどうするか考えているのに」
「まあ、待てレイモン。ザザ、何か策でも思いついたか?」
突然立ち上がったボクに、皆ビックリしました。
普通はそうなりますね。
ボクは1つ咳払いをして、皆を落ち着けます。
「おほん、ほとんど賭けみたいな案ですが、良い案を思いつきました」
「ほお」
「それはどういった案です、ザザ様?」
「低予算で可能ですか?」
「まさか、リッシュモン殿と交渉でもする気ではないだろうな?」
レイモンさんとボリスさんは、興味津々そうです。
オットテールさんは、予算しか頭にないっぽい。
父上は、厭な相手に頭を下げる腹積もりの用ですね。
「ボクの案は簡単です。―――マンティコア達をこちらの味方に引き込む。それだけです」
「「「「「っ!?」」」」」
あらら、何で皆そんなにビックリするのかしらん。
「ははははっ、流石ザザ。面白い案だ。だが、無理無理」
「それ、かなり無理ですよ、ザザ様」
「名案ではありますが、無理ですね」
「野生の幻獣の怖さはお前も知っていよう、ザザ? ワイバーン一頭だけで、死にかけたのだぞ?」
三者三葉、いや四者四葉か、この場合。
あ、言ってる事は同じか。
でも、低予算で、しかも恩賞が貰える可能性が低い状況下では、最善のアイデアと思うんですけどね。
ボクは自分の考えをまずは説明する事にしました。
「マンティコアの群れがある。と、言う事は当然、群れのリーダーがいますよね?」
「むっ・・・まあ、確かにいるだろうな」
「年を取ったマンティコアは、人語を解する程賢い。そうですね?」
「そう言う話ですね。会話が出来るマンティコアを見た事がないので、私には判りませんが」
「野生のマンティコアと交渉? それこそ無理ではないか?」
「そこでオットテールさんに質問です?」
「私に答えられるものなら」
「マンティコア達が何時頃からあの森に生息しているか、判りませんか?」
「う~ん、少なくともかなり昔からだと思いますよ。断言は出来ませんが」
「噂でもなんでもいいので、思い出してくれませんか、オットテールさん?」
「う~~んっ・・・・待てよ。確か、馬丁のマルチノ爺さんが、『曾祖父さんの生まれる前からマンティコアが潜んでいた』と言っていたような・・・気が・・・」
「では、かなり以前から居た、と?」
「断言出来ませんよ、マルチノ爺さんの話ですし」
「では、そのマルチノさんを呼んで下さい」
ボクはすぐに馬丁のマルチノ爺さんを呼んでもらいました。
マルチノ爺さんは、オットテールさんの商家に代々使える馬丁で、若い頃はキャラバンにも参加した事のある頼もしいお爺さんでした。
早速トゥルズ領近郊や『腐毒の森』、マンティコアの目撃等を訊ねます。
「あ~あ~、へぇ。あの近辺は、ワシんとこの曾祖父さんの祖父さんが~、あ~っと、子供ん頃から出たっちゅう話ですわ」
「かなり昔から、ですね?」
「へぇ。ワシの記憶が惚けてなきゃ~、へぇ、そうです」
マルチノ爺さん、話しながら首がカックンカックンしてます。
大丈夫かな?
「人の言葉を話すマンティコアの話とか、聞いた事はないですか?」
「あ~あ~、あ~っと・・・・」
あぁ、マルチノ爺さんがプルプルしだした。
これは聞く相手を間違えたかな?
「おおっ! 思い出した」
「人語を解する個体がいるんですね?」
「あ~っ・・・確か、祖父さんが若ぇ頃、一回りはデケェ奴が森の上を飛んどるのを見たって自慢しとったわ」
「それは喋ってましたか? そこを聞きたいんです、マルチノさんっ」
「知んねぇです」
「あらら」
「綺麗な金ピカの毛並み言うてたぐれぇしか覚えてねぇです」
「・・・そうですか」
これ以上は、『あ~』だか『う~』が続くだけだったので、マルチノ爺さんを下がらせました。
「―――で、結局どうするんです? あのお爺さんの話じゃあ、ザザ様の案は賛成できませんね」
「同感だ。家臣団のメイジ全員で焼き払う事に集中した方がいい。ただ、それだとガスコーニュの守りが・・・」
「私はザザ様の案に賛成ですね。ああ見えて、マルチノ爺さんは物覚えがいいんです」
「そうは言うが、オットテールよ。先程出たマンティコアが今も居るとは限らんのだぞ?」
「「「確かに・・・う~む」」」
賛成なのはオットテールさんだけですね。
不確定要素が多過ぎますから、これは仕方ないでしょう。
やはり、現地調査をしない事には始まりそうもありませんね。
「それに、例え群れのリーダーに会えたとしてだ―――どう言う条件で交渉を進める気だ?」
「そうですよ。野生の幻獣、しかも、群れの王。会話できるとしても、相手はかなりプライドが高い筈」
「借金と人的被害覚悟でぶつかる以外、最早ないのではないか?」
オットテールさん以外の反対意見は続きます。
ですが、ボクはマンティコアとの交渉が成功への鍵だと、勘が囁くのです。
「ボクの交渉条件はこうです。『住処を焼くため、新しい住処を与える約束をする事』。たったこれだけです」
「馬鹿なっ!? 住み慣れた土地を焼くから、他所に引っ越せだと?」
「納得するのか? そんな勝手な条件で」
「ザザ様、ここで言うのは簡単ですが。まさか、一商人である私にそんな条件の交渉をさせる気ですか?」
「まあまあ、落ち着いて」
「これが落ち着いていられるかっ!」
「冗談ではない・・・ですよね? できれば冗談と言って下さい」
やはり受け入れられないのだろうか?
いや、ボクが受けた任務の結果次第でガスコーニュの今後が決まるのだ。
混乱や焦りが出るは当然ですね。
「軍を編成するのは待って下さい。まだ、日数に余裕があるじゃないですか」
「だが、な。集める以上、ある程度訓練する必要があるのだぞ? 徴兵するにも早い方がだな――」
「そうですよ。森を焼くための油や火の秘薬を集めるには時間がかかるのですよ」
「油や火の秘薬はすぐにでも集める事に関しては、ボクは反対しませんよ」
「では、どうするのだ、ザザよ」
「まさか、家臣団のメイジのみで行く気ですか?」
ボリスさんの問いに、ボクは首を横に振ってから口を開きます。
「まずは、ボク自身が森へ偵察に行きます。交渉にせよ、軍の編成にせよ、偵察の結果からにしませんか?」
「むっ・・・確かに」
「偵察には賛成ですが。ザザ様が行かれる必要はないのでは?」
「いえ、元はと言えば、これはボクに与えられた任務。ボク自身が現地に行かなくて、どうするんです?」
「うむ。ならば、オレも付き合おう」
「レイモンはダメです。私がお供します」
偵察案にレイモンさん&ボリスさんが食いつきます。
「なっ!? この中で荒事が最も得意なのは俺だぞ。それに森は危険な場所。ボリスが行ってどうする?」
「私はザザ様の専属水メイジです。お供するのは当然でしょう? それにザザ様が領内を離れる以上、ガスコーニュの守備は貴方が指揮する必要があるじゃないですか」
「それを言うなら、お前も似たようなものだろうがっ!」
「いえいえ、子爵とセヴラン様が居りますから。私が不在でも領内の仕事は大丈夫です」
あらら?
2人とも付いて来る気満々ですか?
どっちでもいいけど、喧嘩しないで下さいよ。
トライアングルメイジ同士の喧嘩って、周りが迷惑するだけですから。
「おい、ザザッ!」
「ザザ様ッ!」
「はい?」
「「偵察行は俺(私)がっ! 付いて行く(行きます)っ!」」
「よしっ、俺達3人で行くか」
「いいですね。そうしましょう」
仲いいな2人とも。
でも、流石にレイモンさんとボリスさんを両方連れて行くのはダメですよね。
どうしましょう?
結局、くじ引きで決めました。
偵察行はボクとボリスさんに決定です。
「・・・・・」
お願いですから机でのの字書かないで下さいよ、レイモンさん。
ボクが生まれる前からガスコーニュの守備隊長してたんですから、しっかりして下さい。
すぐに戻りますから。
と、まあ、まずは偵察ですっ!
<続く>