第四話です。
もはや、TS小説から放れた感がヒシヒシとw
シーメイル好きな菊池真人(きくち・まこと)は、ある日不思議なデジタルカメラを入手した!
それは、撮影した被写体に変身できる特殊な『着ぐるみ』を生み出すのだ!
しかも、それは悪魔の瞳が封印されて魔道具であった!
真人の元に訪れた猫そっくりケットシー・ミケ、及びその上司オセとの交渉の末に、運命の歯車は日常から大きくずれ動く!
さらに、炎を使う女装男まで現れて、益々事態は混沌へと加速する!
超ウリエル・ファイヤーに吹き飛ばされた強面40男の真人は、妖精界に辿り着き、つい妖精の卵を食べてしまうっ!
黄金樹に宿る高位妖精に取り込まれてしまった真人は、果たしてどうなるのであろうかっ?!
チャンネルはそのままで、さあ物語の始まりだあっ!!
オセのカメラ
第四話 ツナ缶×ポトフ×猫妖精
「んっ・・・」
肌寒さを感じてオレは目を覚ました。
寝相の悪さが原因か、布団を蹴散らしたまま寝ていた事に気付く。
オレは大人用紙おむつ以外何も付けずに寝かされていたのだ。
腰周りがゴワゴワしてて気持ち悪い。
そこで、ハッとして起き上がるが、腹筋が妙に弱く、ゆっくりとしか起き上がれない。
おまけに、腕の力も入らない。
オレの太くて逞しい手足が、真っ白くて細い華奢な姿に変わっているのだ。
見慣れない自分の身体に、思わずビックリしてしまう。
「っ?! ・・・あっ」
驚きはしたが、すぐに自分のおかれた状況を思い出す。
「・・・そうだ、『魔界(?)にあるオセの家』で寝かされていたんだったな」
そう、オレが寝ていたのはオセの部屋・・・たぶん客間だ。
蹴散らした布団を引き寄せながら、手の感触を確かめる。
普段自分が使用している布団ではないので比較にはならないが、筋力がかなり低下している事は理解できた。
手足が華奢になってしまったのも、3ヶ月間の寝たきり生活が原因だから当然か。
実際、かなり体重が減ったんだろうと思う。
ついでに肉体が女性型になってしまった事も違和感の原因だろう。
目線を下に落とすと、見慣れた男の体ではなく、丸みを帯びた女性の物だった。
勿論、胸も膨らんでいる。
「はぁ~~~っ」
思わずため息が零れる。
自分の身体なのに、自分の身体でない感触。
軽くショックだ。
寝直そうと思ってはいたが、はっきりと目が覚めると、履かされている紙おむつが気になってしようがない。
身体を起こして膝立ちになる。
周りを見渡すと、オレ用に看病グッズが置いてある事に気付く。
水差し、紙おむつの予備、汗を拭くためのタオルにその予備、ティッシュ等。
オセ達の気遣いに感謝しつつ、取り合えず紙おむつを脱ぐ事にしよう。
マジックテープのベリベリという音が部屋に響いた。
寝たきりだったわりに、すぐに身体を動かせるのはオレと融合した高位妖精のおかげだろうか?
だが、まったく動かせないよりかは遥かにいい。
紙おむつを脱ぐと、股間が妙にスースーする。
男のシンボルが無くなった所為か、妙にスッキリしているのだ。
これは流石にけっこう凹む。
「風邪ひきたくないし、服を着るか・・・。なにか着るものは・・・」
紙おむつの使用済みをゴミ袋に突っ込むと、オレはよろめきながらも立ち上がり、着るものを探した。
部屋の隅にあるクローゼットを発見。
下の段から開けてみる。
使う人間がない部屋だからだろうか、ほとんど空だ。
未開封の靴下やトランクス、それにTシャツが1枚だけ見つかった。
トランクスとTシャツを身につける。
「変な感じだな。まぁ、裸よりかはマシか・・・」
トランクスを履くと、お尻にはひっかかるわ、腰はぶかぶかだわで、どうも履き心地が悪い。
このままだと脱げ落ちそうだ。
クローゼットの横に古新聞の束を見つける。
古新聞を縛っている紐を使って、ベルト代わりにする。
男物のTシャツもオレには大きすぎて、どうもしっくりこない。
まぁ、サイズが元々あっていないものを着ているのだ。
文句を言ってもどうしようもない。
「さて、どうするか・・・」
部屋の中にはオレだけだ。
ミケもオセもいない。
眠りっぱなしだった所為か、目が冴えてしようがない。
何かした方がいいなと考えていると、ふと紙おむつのパックが目に付いた。
せっかく服を着た事だし、トイレぐらいは自分で行くかと、襖に向かう。
「んっぎぎぎいぃっ・・・・」
ガッタガタッ・・・
たてつけ悪過ぎ。
10センチぐらいまでは楽に開くのに、その後が開き難い。
襖相手に四苦八苦していると、オレ以外の手がニュッと襖を掴み、ガゴッと開けるのを補助してくれた。
そして、頭上から声がかけられる。
「なんじゃ、もう起き上がって大丈夫なのか?」
豹頭のおっさんオセだ。
こうして近くに立って見ると、オセのおっさんはかなり長身だと判る。
相変わらずオセの服装はランニングシャツとトランクスのみであったが、一応命の恩人ゆえそこは追及しない事にする。
しかし、オセさん、お口ビール臭い。
呑んでたな。
「あっ・・・ありがとう」
「歩けるようになったのか、お主?」
「あぁ。まだ、ちょっとふらつくけどな」
「病み上がりであまり動き回るでない」
「いあ、ちょっとトイレに・・・」
「・・・・」
なんで急に黙るかな、このおっさん。
しかも、突然考え込み始めたぞ。
「あっ? おー、あー、判った。こっちじゃ、ついてまいれ」
酔って思考能力が低下してるだけか。
踵を返して歩き始めるオセの後にオレは続いた。
まぁ、場所だけ教えてもらえばいいんだけど。
ペタペタ歩きながら、周囲を見渡す。
・・・・ここ、悪魔の城だよね?
どう見ても、木造建築の日本家屋なんですけど?
トイレに案内してもらい、個室に入っても、オレはしばらくの間、首を傾げていた。
あっ、本当にしたくなっちゃった・・・。
チョロチョロ~~~っ、ドジャアアアァッ・・・・
「1人で用が足せるなら、大丈夫じゃな? ご飯にしようと思うのじゃが、どうじゃ?」
トイレで用足しを終えたオレに、オセがニコヤカにそう言った。
しかし、病み上がりの人間がトイレから出た瞬間にかける言葉か、それ?
デリカシーねぇなこいつ。
まぁ、寝っぱなしだった所為で腹が減っているのも事実。
「おう、ゴチになります」
「うむ」
と、オレはオセの後を着いて居間らしき部屋に向かった。
薄型テレビとちゃぶ台がある部屋。
ここもオレが寝かされた部屋と同じで畳敷き・・・。
壁にはカーテンがかけてあるので外の景色は見えないが・・・ひょっとして、ドッキリカメラに嵌められてないか、オレ?
と、どうしても首を傾げてしまう。
「ほれ、そんなとこでつっ立っとらんで、座りなさい」
「あ、あぁ・・・」
オセの前に向かい合う位置に腰掛ける。
オレが座るのを確認すると、脇に置いてあるご飯ジャーから、オセは白いご飯を茶碗にペタペタ盛り始めた。
「たいしたものはないが、まぁ喰らうがよいっ」
「あ、ありがと・・・あれ?」
ホカホカご飯が盛られた茶碗と箸を受け取り、ちゃぶ台の上を見る。
缶詰が1つと醤油さし、マヨネーズ、後はお茶がつがれた湯飲みが2つ。
「ツナ缶じゃ。見た事ないんか、お主?」
「いや、あるが。・・・・魔界の食事って、こう・・・なんて言うか、え~~~?」
「文句あるなら食わなきゃよいではないかっ!」
「いや、想像からかなり掛け離れてたから、つい・・・すまん」
「判ればよい」
「1つ聞くけど、いつもこんな感じの食事なの?」
独身男性みたいなショッパイ食卓に思わずオレは質問してしまった。
モグモグと米をかきこんでいたオセの動きがピタリと止まる。
あれ?
なんか肩が震えてるぞ。
怒らせる質問しちゃったかな?
「あっ、いいんだ。気にしないでくれ。オレも似たような時あるからさ」
「・・・まともな料理ができる者がおらんのだ」
「はっ?」
ボソリと呟くオセ。
魔界の統領って、コックとかの使用人雇えないのか?
「4年と半月程前にの・・・嫁と別れたばかりなんじゃ・・・」
ボソボソと哀しげに口を動かすオセ。
声には出さないが、結婚してた方に驚くオレ。
「そっ、そうか・・・悪かったな。嫌な事聞いて」
「よいのだ。もうアレらとは終わったんじゃ」
「ら?」
「第2妻と第3妻の事じゃ」
「はっ? ・・・・なにぃっ?! 結婚してただけでも驚きだが・・・。あんた、嫁さん3人もいたのかっ?!」
「? 何を驚く? 普通普通」
「普通って・・・一夫多妻なのか魔界?」
「いや、一夫多妻と多夫一妻とか全然珍しくないぞ。強い悪魔が増えるのは良い事じゃからな。繁殖万歳っ」
「独占欲の強いヤツが一人でもいたら、毎日大変そうだな・・・・」
「ほう、判るか?」
「なんとなく、そう思っただけだ。・・・それで、第1婦人は?」
「天使の使う『裁きの雷』に打たれて死んだわ」
「すまん」
「うむ、これ以上はプライベート過ぎて教えぬ。我輩にも男の矜持があるゆえ、な・・・」
「・・・判った」
黙ったまま二人、モソモソと箸と顎を動かす。
途中、口をつけた茶はちょっと冷めていた。
けっこう苦労してるんだな悪魔も・・・。
しかし、無言での食事はちと寂しい。
「ところで?」
「なんじゃ?」
「ミケは一緒に食わんでええのか?」
「あぁ、あいつらなら台所で食べておるよ」
「そっか・・・・ん?」
「どうした?」
「今、『ら』って言ったよな?」
「言ったが、どうした?」
一応、上司と部下で食事は別と区切ってあるようだが。
ミケみたいな癒し系と一緒にご飯が食えないのはちと寂しい。
まぁ、食ってる最中にちゃぶ台の上でゴロゴロされると困るって理由もありそうだ。
毛とか飛ぶしねぇ。
「ミケ以外にも部下いるのか?」
「当然じゃろう。我輩は魔界の統領の一柱、30の悪霊軍団を従える長官なるぞ。どうだ、恐れ入ったか?」
「ふ~ん。その悪霊軍団は全部、ミケみたいなヤツなのか? だとしたら食事の用意が大変だなぁっと思っただけだ」
「勘違いするでない。ミケ達はただの臨時雇いにすぎぬ」
ミケ、臨時雇いだったのか・・・・。
「そっか。でもさ。食事くらい、他の幹部達と一緒に食わないのか?」
「我輩自慢の配下である悪霊軍団は皆死んでる連中ゆえ、食事の用意は不要よ。ただ・・・・・」
「ただ?」
「腐乱死体や幽霊達と一緒にご飯が食えるのか、お主?」
「OK、納得っ。それ以上は食欲なくなりそうなので言わなくていいや」
悪霊達に食事の用意をさせればいいんじゃねぇかと思うのだが・・・。
ん?
考えると、やっぱ駄目か。
腐乱死体の欠片とかが混じったら最悪だろうな。
とりあえず食べる事に集中する。
しかし、ずっと寝たきりだったわりに食えるオレの胃袋って凄い。
まっ、半分妖精になったみたいだし、それが原因って事にここはしとくか。
だがしかし、缶詰と米だけが続くのは嫌だなと思う訳で。
3ヶ月も看病してくれたみたいだし、簡単な料理ぐらいは作ってやってもいいかな。
例え相手が悪魔だとしても、恩知らずと思われるのはちと嫌だ。
「なあ?」
「なんじゃ?」
「オセさんは、毎日、ご飯と缶詰なのか?」
「いや。大抵は店屋物か宅配ピザだが」
「・・・・魔界にも食堂とか宅配ピザとかあんのかよっ?」
「あるわいっ! 今日はいつも利用しとる店が定休日なだけじゃ」
頭痛くなってきた。
おどろおどろしい魔界のイメージぶち壊しです。
「まっ、あるならいいや。じゃあ、今日だけツナ缶って事なのね?」
「フフフッ、甘くみるでない」
「おっ?」
「昼は鯖の味噌煮缶、夜は赤貝の煮付け缶を用意しておる」
「いや、それ、全部缶詰じゃん・・・栄養偏るよ」
「だって、我輩、米は炊けるけど、ほとんど料理した事ないんじゃもの」
「せめてインスタント味噌汁つけてよ」
「買い置きが切れてのぉ・・・」
ショボンとなる悪魔。
駄目親父だな、コイツ。
普段何食ってるのか小一時間問い詰めたい気分になる。
「材料さえあれば簡単なおかずくらい、オレ作れるよ」
「なにぃっ?! 今、何と申した?」
「いあ、簡単な料理ぐらいはできると言ったんだが」
「クククッ、我輩、けっこうグルメじゃぞ。お主如きが、この魔界の統領に食事を作るだと・・・」
いあ、普段の食事のメニューを聞く限り、どう見ても美食家には思えませんよ、オセさん。
しかし、セリフからすると、台所にオレを入れる気はなさそうだなぁ。
「すまん。世話になってるのに、ちと無神経過ぎたな・・」
「お主・・・」
「悪かったよ、ずうずうしい事言っ・・・」
「おでん」
「ん?」
「おでんは作れるのかと聞いておる?」
「まぁ、ポトフっぽい簡単なのは一応作れるが・・・」
「ポトフ・・・だと・・・」
「本格的なおでんは手間がかかりすぎるんだよ」
「そうなのか? ・・・ならば、ポトフでよいっ! いや、むしろポトフを作るのじゃっ!」
なんだ?
なんかスイッチ入った?
どんよりした目が一瞬、キュピーンって光りましたよ。
「はぁ・・・いいけど。すぐ?」
「うむ、まぁすぐでなくてよいが・・・・」
「が・・・?」
いきなりオセが立ち上がり、オレの腰に取り縋りつくようにぐわっと飛びこんできた。
「ぎゃああああっ! くっつくな! 離れろっ!」
「頼むっ! 作るのじゃっ! 作ってくれぇっ! 二人の嫁に逃げられてからは、まともなもの食っておらんのじゃあっ!」
「痛いって! 抱きつくなっ! 判った、判ったから離れろっ!」
「作ってくれるか?」
「判ったから、手ぇ放してくれ。痛くてたまらん」
「むっ、すまぬ」
コイツ絶対尻に敷かれるタイプだな。
「材料とかはあるの?」
「おおっ、頼もしいではないかっ。材料の事ならば安心せい、必要な物ならスーパー地獄沼でそろえてやるぞっ」
「スーパーも・・・あるんだ」
「勿論じゃとも。さあ、何がいる? 言うがよいっ。我輩が用意してしんぜよう」
いそいそと手帳とペンを用意する魔界の統領。
この様子じゃ、嫁さんにお使い頼まれたら断れないタイプだな。
「じゃあ、コンソメ、ソーセージ、キャベツ、タマネギ、ニンジン、ジャガイモ・・・あっ、ベーコンもあるといいかな」
「ふむふむ」
「コンソメは固形のヤツでお願い。コンソメがなかったら、うどんスープか和風出汁の元でもいいから」
「ほほう、和風出汁とな?」
「和風出汁使うとおでん風になるんだよ」
「なん・・・だと・・・」
「何、格好つけて考え込んでるんだ?」
「それって、アリなのか?」
「オレ的にはアリだ」
「ふぅむ。熟考の余地がありそうじゃ・・・」
「悩む事か?」
「味の想像がつかぬ」
どこがグルメだ?
ちょっと考えれば想像つくだろ!
「まぁ、よい。ちょいと買い物してくるとしよう」
「ミケとかに行かせればいいんじゃね? 部下だろ?」
「買い物袋とか持てんじゃろ、アイツら」
「あぁ、そうか」
トレーナーとズボンを着込み、財布を用意しだすオセ。
豹柄のセカンドバックに携帯を入れたり、ハンカチとポケットティッシュを詰め込みだす。
もう、どこからツッコンでいいか判りません。
「では行ってくる・・・」
「聞き忘れてたけど、鍋とかあるの?」
「大丈夫じゃ、それはある」
「そっか」
「お主は我輩が戻るまで、寝るなり居間でテレビでも見ておるがよい」
「判った。そうさせてもらう」
「では、行って来る」
「いってらっしゃい」
オセが出て行ったので、テレビでも見るかとリモコンを探す。
テレビの前に置いてあったので、手に取りスイッチオン。
「うあ・・・」
悪魔の癖にケーブルTVの契約入ってら。
うっ、地上波も映る。
魔界専用チャンネルもあるのか・・・見るときっとゲンナリしちゃうくらいツッコミどころあるんだろうなぁ。
普通に人間界の見ようっと。
「うへぇ、うらしま太郎になった気分だわ」
流石に3ヶ月もテレビから離れるとは思わなかったよ。
座布団を2つに折って枕代わりにし、オレはゴロリと横になった。
「んニャ? 統領はお出掛けかニャ?」
「そろそろトイレの砂を掃除してもらおうと思ってたんだがな・・・」
「帰ってからでもいいんじゃね? イヒヒッ」
「拙者達の食器も洗わずに、どこに行ったでござるか・・・」
振り返るとニャンコが4匹、後ろ足で立って歩きながら居間にやってきていた。
アメリカンショートヘヤーがミケで、残りはベンガル風、長い毛のスコティッシュフォールド風、スマートで黒いハバナ風の猫達だ。
みんなそれぞれ可愛いな。
「もう歩きまわっても平気かニャ?」
「おうっ、もう1人でトイレも行けるぞっ。今まで看病してくれてありがとな、ミケ」
「まかせるニャッ!」
オレは身体を起こすと、ミケ達に『おいでおいで』をした。
すぐに2匹がオレの膝に乗ってきた。
和むわぁ。
まぁ、流石に2匹も乗られると重いけどな。
しかし、ベンガルとハバナはオレを警戒してるのか来てくれない。
ちょっと寂しいぞ。
「そいつは誰だ? 紹介しろ、ミケ」
「でござる」
なんか生意気そうだな、この2匹。
「自己紹介するニャ」
ミケに促され、オレは名乗る。
「おう。オレは真人だ。よろしくな」
「あんた、マコトというニョか、知らなかったニャ」
「ちょっとショックだよ、それ・・・」
「ごめんニャ」
ミケがオレの肩に上がり、ポンポンと叩く。
気にするなと言いたいのだろうか?
「次はミケ達だニャ」
「よろしく」
「ミケ達は統領に雇われた斥候部隊ニャ。みんニャ順番に自己紹介するニャ」
ミケがそう言うと、まずベンガルがオレを睨むように見上げながら口を開く。
「俺の名は、ハジキ。銃火器の扱いが得意だ。覚えておけ」
「よろしくな、ハジキ」
「ふんっ」
あらら、ツンってされちゃった。
ハジキは筋肉質のがっしりした野生味溢れるケットシーだ。
豹のような美しい模様が魅力的だな。
だが、そのちっちゃい身体でどうやって銃を使うのか聞きたくなる。
こっちが話しかけようとする前に、今度はハバナ風の黒い猫が口を開いた。
「拙者の名前は、クツシタ。近接戦闘ならお任せあれ」
「よろしく、クツシタ」
よく見ると、なるほど・・・黒い毛並みの中、後ろ足の先が白い。
靴下を履いているみたいなケットシーだ。
それにほっそりしたスリムボディに長い四肢、卵形の綺麗な緑色の瞳がとってもクール。
最後はオレの膝に乗った毛玉、いや、耳の折れ曲がった長毛タイプのスコティッシュフォールド。
「俺様はタレ耳のマイケル。マイケルでもタレミミでも好きな方で呼んでいいぜぇ。イヒッ」
「よろしくな、タレミミマイケル」
「『の』だけ略して呼ぶなよぉ」
「わ、悪い」
見た目の愛らしさと違って、なんか意地悪そうだな。
名前の由来は、小さな垂れ下がった耳だろうね。
フワフワな毛並みだけど、触ると以外に筋肉質でしっかりしてら。
みんなそれぞれ個性あるなぁ・・・・ん?
「どうしたニャ?」
「あっ、いや、みんな普通っぽく話してるからね。ミケだけナ行がニャッてなまるから、ちょっと、ね」
「あぁ、そんな事か? くだらんっ、そいつは人語が苦手なだけだ」
「拙者達は普通に話せるのでござるのに不思議でござるよ」
「ほっとくニャッ!」
「個性ってヤツだ、イヒヒッ。あんまり個猫(個人の意っぽい)攻撃するもんじゃないぜぇ」
ナ行がなまるのはミケだけか・・・。
しかし、なんだ。
こうして、ニャンコ達に囲われてると、指がワキワキするな。
「っ?! みんニャッ、気をつけるニャッ! マコちゃんはテクニシャンニャッ!」
って、『マコちゃん』はねぇだろう、ミケ?
だが遅いわ。
まずは膝のスコティッシュフォールドっぽいタレミミからだっ!
なでなで・・・もふっもふっ、
「オニョニョニョオォッ?!」
撫でくり舞わしてやるわっ。
「ほ~れほれっ、どうよ?」
「おほっ、お前さん良い手つきだねぇ。イヒヒヒィッ!」
タレミミは気持ちよさそうにテロンッとお腹を上にする。
「くっ! だから人間に近付くなと言ったんだっ」
「そ、そんなに気持ちいいでござるか?」
「おいっ、よせっ。ヤツのだらしない顔を見ろ。俺達は傭兵だぞっ!」
「しっ、しかし・・・」
ハジキとクツシタはこっちに来ないのか?
とりあえず、タレミミがウニャアっと大人しくなったので、右手で『カモン』っとしてみる。
「が、我慢できニャいニャッ!」
「おっと」
ミケがオレの手の中に飛んできた。
「ミケにもするニャッ!」
「あぁっ! ズルイでござるっ! 拙者もして欲しいでござるっ!」
「クツシタッ! やめろ、人間から離れるんだっ!」
ミケとクツシタとハジキが、オレの周りでニャアニャア言い争い始めた。
「チャァ~ンスッ!」
「しまったぁ!」
オレは右手でハジキを、左手でクツシタを捕まえる。
親指マッサージ開始。
もふっもふっ・・さわさわ
もふっもふっ・・・・なでなで
「ハニャァァ~~ッ」
「桃源郷でござるぅぅ~」
「愛いヤツらよ、くくくっ」
「ニャア、ミケも、ミケもぉっ!」
「はいはい、すぐにしてあげるからねぇ」
「わーいっ」
あぁ、シ・ア・ワ・セ・・・・。
猫、可愛いよ、猫っ!
なんて素晴らしい生き物なんだ、猫っ!
・・・おっと、こいつら猫じゃなくて猫妖精だったな。
まっ、可愛いからいっか。
どいつもこいつも、シルキーな手触りが堪らんでゴワス。
もっと撫でてやるぞ、このニャンコめ。
これでどうだっ!
両手両足で4匹同時攻撃ぃぃっ!
「「「「ニャァァ~~ッ!!」」」」
うりうり・・・うりうり・・・おほほっ、最高ッスね。
「何やっとるんじゃ、お主ら・・・?」
かけられた声に思わず振り返る。
恍惚の表情でグッタリした4匹を愛でてるオレの背後には、何時の間に帰ってきたのか、両手に買い物袋を持って立ち尽くすオセの姿があった。
猫といると時間がたつのがやけに早い。
うん、魔性の生き物だな、猫。
凄いぞ、ケットシー斥候部隊っ!
「親交を深めてたっ」
「そっ、そうか・・・・一応そいつら、我輩の部下なんで、ほどほどにしといてくれぬか」
「判った」
ポトフを作ったのは、それからだった・・・。
ん?
こんな事してていいのか、オレ?
まっ、和んだからいっかぁ~~~。
・・・つづく